日本医師会 COVID-19有識者会議
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COVID-19によるメンタルヘルスへの影響と対応

神庭重信日本精神神経学会 理事長九州大学名誉教授
相澤明憲日本精神神経学会 副理事長特定医療法人佐藤会 弓削病院 病院長
水野雅文日本精神神経学会 理事東邦大学医学部 精神神経医学講座 教授
COI:なし
注:この記事は、有識者個人の意見です。日本医師会または日本医師会COVID-19有識者会議の見解ではないことに留意ください。
  • COVID-19パンデミックがもたらすメンタルヘルスへの主な影響には、不安・恐怖、イライラ、睡眠障害、物質依存、その他の精神疾患の発症・増悪、自殺などがある。
  • メンタルヘルスへの影響を受けやすいハイリスク者には、感染症罹患者・検疫対象者、医療従事者、児童・保護者、高齢者・女性、既存の精神的・身体的疾患を有する人、精神科病床に入院中の患者、経済的に困窮している人、いわゆる災害時要支援者などがいる。
  • 必要なメンタルヘルス支援として、感染症流行の影響下にある市民への支援、罹患者や検疫対象者の家族・友人・恋人・同僚等の関係者への支援、フロントラインで働く医療従事者への支援、新しい働き方が求められている労働者などが挙げられる。
  • COVID-19がもたらす精神疾患の新たな増加と既存の精神疾患の増悪に対応するためには、保健師、心理職らによる精神保健活動や心理相談、ゲートキーパー機能の強化、かかりつけ医と精神科医の連携、診療所と病院との連携といった地域精神保健・医療のネットワーク機能を格段に強化する必要がある。

はじめに

新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)の蔓延は未曾有の公衆衛生上の危機である。これまでの自然災害と比べても、より甚大な社会的混乱を導き、人々の日常生活に広範な影響を及ぼし、不安、うつ病、不眠、自殺念慮など国民のメンタルヘルスへ及ぼす影響も深刻であり、その対策をただちに講じることが求められる[1, 2]。

国連は、「COVID-19 and the Need for Action on Mental Health」と題した政策提言を発出した(2020年5月13日)。何億人もの人々が被る計り知れない苦しみを減らし、社会への長期的な社会・経済的コストを軽減するために、メンタルヘルスへの歴史的な過小投資を遅滞なく是正する必要があること、そして公共政策として以下のことが求められると提言している[3]。すなわち、

  1. 社会が一体化したアプローチを適用して、メンタルヘルスを促進、保護、ケアすること。
  2. 緊急時メンタルヘルスと心理社会的サポートを幅広く利用できるようにすること。
  3. 将来のためのメンタルヘルスサービスを構築することにより、COVID-19からの回復をサポートすることである。

日本精神神経学会では、災害支援委員会と精神保健に関する委員会[1, 2]が中心となり、メンタルヘルスに関する情報を集積し、状況を分析するとともに、その対策について提案している。加えて、英文機関誌Psychiatry and Clinical Neurosciencesでは、特別号(Virtual Issue)を立ち上げ、国内外の情報を収集・発信している。

本稿では、これらの資料の要点をまとめて紹介する。さらに詳しく知りたい方は、ウェブサイトをご覧頂きたい[1]。

1 COVID-19パンデミックがもたらすメンタルヘルスへの主な影響

パンデミックがもたらすメンタルヘルスへの主な影響には、不安・恐怖、イライラ、睡眠障害、物質依存、精神疾患の発症・増悪、自殺などが挙げられる[4-9]。

1)不安・恐怖、イライラ

感染することへの不安・恐怖を抱き易い上に、自分が周囲に感染を広げたのではないかという不安が生じる。また、今後に予想される経済・生活面の困窮への不安を抱く市民が多い。さらに行動が制限されることにより、普段より落ち着かず、焦燥感や怒りを抱え易くなり得るため、家庭内では、ドメスティック・バイオレンスや虐待の悪化や増加が懸念される。

2)睡眠への影響

外出の自粛時には屋内で過ごす時間が長くなるため、生体リズムが崩れ、寝つきが悪い、夜中に何度も目が覚めてしまう、熟眠感が得られないといった不眠の症状や逆に過眠の症状があらわれることがある。

3)物質依存・嗜癖行動

不安やフラストレーションを長期に渡って抱き続けることや、生活環境の変化に伴い目標や関心の対象を見失うことは、アルコールや喫煙、薬物等への物質依存や嗜癖行動(ネットやゲームへの依存)を誘発したり、増強したりすることがある。

4)精神疾患の発症・増悪

自然災害や今回のような感染症の拡大など、社会を大きく揺るがし生活環境が大きく変化するような出来事が起こった場合、健康であった人が精神疾患を発症したり、精神疾患を患っていた、あるいは寛解状態にあった人が再発・悪化したりすることがある[10]。

  1. COVID-19罹患者やその家族等に対する偏見・スティグマ・中傷にさらされる体験は、トラウマ体験として、心的外傷後ストレス反応を引き起こすリスクとなる。
  2. COVID-19感染がもたらす経済・生活面への甚大な悪影響自体、自殺のリスクを引き上げることになり十分な注意を要するため、うつ病を始めとする精神疾患の罹患や病態の増悪に伴う自殺のリスクには社会全体として慎重な対応が求められる。

2 メンタルヘルスへの影響を受けやすいハイリスク者

メンタルヘルスへの影響を受けやすいハイリスク者として、感染症罹患者・検疫対象者、医療従事者、児童・保護者、高齢者・女性、既存の精神的・身体的疾患を有する人、精神科病床に入院中の患者、経済的に困窮している人、そしていわゆる災害時要支援者などが挙げられる。

1)罹患者・検疫対象者

COVID-19のようなまだその実態が十分に明らかでなく、重篤化し死に至る恐れのある病に罹患することはそれだけで強いストレスを生む。加えて、罹患者は隔離下に置かれ、家族や友人などの親しい者とのコミュニケーションから断絶される。さらに、罹患者自身は世間の激しいスティグマに晒されることがある。

2)医療従事者、介護従事者、感染症対策従事者(特に、罹患者に直接対応する看護師・医師)

罹患者に直接接する機会が多い医療従事者は強いストレス下にある[11-13]。感染の不安恐怖に常におびえながらの激務はそれだけで極めて高ストレスであるが、現場を目撃することで、自身は経験していなくても、 体験者と同様のトラウマを受ける(代理トラウマ)や医療現場における道徳的・倫理的判断(トリアージなど)に伴う精神的苦悩(道徳的傷害)、燃え尽き症候群などの問題もある。COVID-19対応の医療従事者を対象とした調査では、50.4%にうつ病症状、71.5%に心的外傷後ストレス反応が見られたという報告があり、医療従事者への支援は極めて重要である[11]。

加えて、罹患者と同様、医療従事者本人のみならずその家族までもが世間からのスティグマを受けるかもしれない。家族へ感染させること心配して、自宅に帰らず、宿泊施設に泊まり込む従事者もいて、彼らには過重な身体的、精神的ストレスが加わる。

3)児童と保護者[14,15]

COVID-19パンデミック状況下において、幼児期~思春期・青年期の子どもにもストレス反応がみられる。また、長引く休校は、規則正しい生活リズム、学習習慣、運動の機会などが失われることにもつながる。

外出自粛・休校措置が取られている中、ストレスや不安を解消し、また時間をつぶすための手段として、ゲームやインターネットの利用時間が伸びてしまいがちである。しかし、過度なゲーム利用はゲーム行動症(ゲーム障害)のリスクを高める可能性がある。その症状には、睡眠の減少または昼夜逆転、栄養失調、攻撃性、深部静脈血栓症、頭痛、頚痛、言葉や身体的暴力、自尊心の低下、注意散漫などがある。

また、休校期間が長期化し、学校再開の見通しが不透明な状況が続いている。学校が再開された場合に、それを楽しみにする子どもがいる一方で、登校への不安が強まり、心身の不調を訴えて登校を渋る子どもも少なくはないだろう。元々不登校傾向のあった子どもや、友人関係や学業の問題を抱えていた子どもの間では、学校再開に伴い不登校問題が顕在化する怖れもある。

4)高齢者と女性

認知症などによる認知機能の低下がみられる場合、情報の正しい理解が難しく、隔離状況において不安、怒り、ストレス、動揺、引きこもり等の問題が生じやすくなる[16]。

また社会的距離(ソーシャルディスタンス)を守るために、ICTやスマートフォンが広く活用されている。しかしながら、高齢者はこれらに馴染みがない者も多く、社会から取り残されてしまう社会的孤立状態に陥る危険性が高く、メンタルヘルスに悪影響が及ぶことが指摘されている[17]。

感染予防の観点から、職員による自宅訪問サービスの縮小、老人福祉施設等の利用頻度の低下、施設内での活動・交流の縮小などが起きている。それに伴い、活動量の低下や認知機能の低下、抑うつ状態などの心身の不調が見落とされる危険性がある。

女性は男性よりストレスを感じる割合が多い[3]。とくに妊娠中や新生児を育てている女性は、必要なケアやサポートが思うように得られず、感染の不安を抱えている。行動自粛下では、児童虐待が増えるだけでなく、女性への暴力が増えると予想される。

5)既存の精神的・身体的疾患を有する人

精神疾患を患う人はストレス脆弱性を有し、メンタルヘルスが悪化しやすいハイリスク者である。不安症患者で不安症状が悪化したという報告は多く[7,8]、中でも強迫症患者にとってはCOVID-19流行下の状況は強迫症状が悪化しやすい条件が揃っており、症状悪化が懸念される。物質依存患者はストレス下で症状が悪化する恐れがあり、緊急事態宣言下の活動制限による治療プログラムの中断によって症状再燃のリスクが高まる[18]。また、身体合併症を有する者は重篤化および死亡率が高いと報告されており、より強い不安を抱いている。

6)精神科病床に入院中の患者

精神科医療が果たしている役割上、診療科の特殊性を考慮して十分な対策を行わなければ、院内に感染症を持ち込み、クラスター化し易いことが懸念される。既に我が国の精神科病院における新型コロナウイルス感染やクラスターの発生が複数報告されている。一方、感染を不適切に恐れ、措置入院や精神科救急事例の受け入れを 忌避することで地域の精神医療が滞ることがあってはならず、また精神疾患患者であるということで、本来受けるべき感染治療が受けられないという事態があってはならない。大きく以下の4局面での対策が求められる。詳細は文献[1]を参照されたい。

  1. 医療圏において、精神医療従事者の代表を含めた感染症対策の体制構築
  2. 精神科病床における感染防止、拡大防止のための対策
  3. 精神科病床で感染症が発生した際の早急な対策・対応
  4. 一般病院、総合病院、大学病院での対策

いずれの対策においても、入院前あるいは入院直後の PCR検査実施、観察期間に使用できるだけの十分な防護資材の準備、円滑な転院体制の整備などを整えることが極めて重要である。

7)経済的に困窮している人

休業要請及び営業時間短縮の要請により、特に宿泊業、観光業、飲食業等の経営者・従業員を中心に収入減が著しい。終息の見えない経済不安は深刻で、うつ病などの発症増加が懸念される。非正規雇用を中心とした労働者に就業時間数減少、手当の不払いなどによる収入低下など就労条件の急激な悪化が生じている。また社会の急激な変化で失業や解雇になる労働者が多く生じ、そうならなくとも将来への不安は強く、労働者のメンタルヘルスに影響を及ぼす。

こうした社会環境に対する反応として不安や抑うつなど様々なメンタルヘルス不調が生じ、その最悪な転帰が自殺ともいえる。バルブ経済崩壊の後で日本の自殺率が急増した。その時代のデータに基づくと、1%ポイント完全失業率が上がると、男性で、10万人あたり約25人の自殺者増加につながったと推計されており[19]、自殺者数がコロナ感染症そのものによる死亡者数より多くなることも想定される。

8)災害時要援護者(災害弱者)

なお、以下のような方々は、「災害時要援護者(災害弱者)」として、一般の人々と比べ災害時に様々な生活上の支援が必要になることが知られている。

  1. 心身障害者(知的障害、発達障害、精神障害含む)
  2. 認知症や体力的に衰えのある高齢者
  3. 乳幼児
  4. 日本語の理解が十分でない外国人
  5. 一時的な行動支障を負っている妊産婦や傷病者

子育てを行う家庭の中には、複数の項目が当てはまる場合もある。また、保護者の中には、未診断の発達障害や知的障害をもつ方がいる。このようなケースでは、災害の局面や時期によって必要とする援護が異なり、医療と福祉・教育など多領域の連携による、きめ細かな対策が求められる。当事者は自分からSOSをなかなか出せない。子どもや家族に関わる様々な機関の関係者が、問題の早期発見・早期介入のゲートキーパーになることも大切である。

ウイルスのような目に見えない脅威に対しては社会不安が高まりやすく、噂やデマが拡大しやすくなる。先の見えない不安を減らすため、見えない敵ではなく、特定の人や集団の責任を求めて攻撃を行うスケープゴート現象が生じうる。COVID-19が初期に発生したとされる中国武漢出身者や中華系の人々を中心に外国人がスケープゴートとして差別され攻撃される対象になりうる。そもそも言語や文化、習慣などが異なる国で生活でストレスを多く有する外国人はさらなる高ストレス下に置かれることになり、精神疾患発症のリスクが高まる。

3 必要なメンタルヘルス支援について

国連の政策提言[3]にあるように、国の社会経済的対策と地域・職域のメンタルヘルス対策を両輪として強力に自殺対策を含むメンタルヘルス対策を推し進める必要がある。以下では、地域社会への支援、罹患者や検疫対象者とその関係者、精神疾患を抱える当事者、職場での支援について触れる。

1)感染症流行の影響下にある市民への支援

この緊急事態はグローバル社会が初めて経験する危機であり、メンタルヘルスに与える影響もかつてないほど深刻であるため、精神科医師や心理職などのメンタルヘルス専門家への需要は極めて大きい[20-23]。また、自然災害後と同様に、メンタルヘルスにとどまることなく、生活困難全般への多様で多層的な支援が必要である。

以下に、感染症流行下における一般的なストレス反応に対する基本的な対応について述べる。

  1. 健康的な生活を維持する
    • 休校や外出自粛、在宅勤務などでそれまでの生活スタイルが変化している状況においては、それまでのルーティンが崩れがちである。睡眠や食事のリズムを維持し、規則正しい生活を保つことは、メンタルヘルスの維持にとって重要である[5,6]。可能な限りそれまでの日課や習慣を継続し、自宅でできる運動を取り入れることも有用であろう。自宅で過ごす時間が長くなることで、アルコール摂取時間や摂取量が増加する可能性もあり、注意が必要である。
  1. 信頼できる情報を得て、情報過多を避ける
    • COVID-19に関する情報に過剰に接することで恐怖感や不安が増大する可能性がある。そのため、厚生労働省や自治体などの信頼できる情報源から情報を入手すること、またニュースやソーシャルメディアなどに接する時間を制限することが推奨される[5,6]。ニュースやメディアにアクセスする時間帯を決めておくことは、メディア視聴時間を制限する上で役立つ。
  1. 他者とのつながりを保つ
    • 実際に会って話す機会が限られている状況下においても、電話やソーシャルメディア、オンラインのツールなどを活用してつながりを保つことは可能であり、支えになる人とのやりとりはストレスの軽減に役立つ。罹患者や自宅待機者についても、家族や親しい人とのコミュニケーションを維持することは孤立感や孤独感を和らげる上で有用である[5,6]。
  1. ストレス対処法を身につける
    • 感染症流行下やそれに伴う生活の変化が生じた際には、恐怖や不安、ストレスを感じることは自然な反応であり、それらに対する対処法を身につけることが大切である。具体的対処法としては、リラックスできる時間を作ることや自分が楽しめる活動をすること、これまでに役立ったストレス対処法を試してみること等が挙げられる[5,6]。呼吸法や漸進性筋弛緩法などは手軽に取り入れることができるリラクゼーション技法である。

2)罹患者や検疫対象者の家族・友人・恋人・同僚などの関係者への支援

罹患者の家族は、罹患者への日常的なケアを行うと同時に、病状変化への不安や自分自身が感染するかもしれない不安を抱える。これらの感情は自然な反応であり、家族も基本的なストレス対処を心がけることが必要である。また、罹患者やその家族は回復後にもスティグマや差別に苦しむこともある。

不幸にも罹患者が亡くなった場合には、家族は死に目に会えず火葬後に遺骨を受け取るということもあり、「喪の作業」ができない、あいまいな喪失を強いられるため、喪失からの回復の遅れや死別反応の遷延化が懸念される[23]。家族は、医療者から死の状況について聞くことを望んでいる可能性があるが、複雑な医療情報を伝えることは家族には過重な負担となってしまうために注意が必要である。シンプルで分かりやすく、家族にとって役立つ情報を慎重に選択することが必要である。また医療従事者は、これら家族から非難を向けられることがあるかもしれないが、遺族の気持ちに寄り添い、可能であれば、必要時に利用できる相談先や資源を知らせておくことも役立つ。

3)フロントラインで働く医療従事者への支援

各地で、フロントラインで働く医療従事者を支えるために、決まった日時に市民がいっせいに拍手する、都市のシンボルとなっている建築物をライトアップするなどして、エールを送る行為が行われている。あるいは、食事や飲み物を差し入れるなどのボランティア活動が行われている。このように、医療従事者の活動に感謝し、激励し、市民との同盟関係を築くことには大きな意味がある。

また、定期的なストレスチェックやオンラインでの心理カウンセリングが必要な場合が想定される。医療従事者へのメンタルヘルス支援としては、以下のポイントが挙げられる[1]。

  1. 基本的ニーズ(食事、睡眠、休息)や物理的な安全のニーズの充足
  2. コミュニケーション機会の確保
  3. セルフチェックとセルフケアの促進
  4. 危機後の継続的なケアの実施(PTSDなど)

4)新しい働き方が労働者のメンタルヘルスや産業保健体制に及ぼす影響を明らかにし、対策を策定する。

情報通信設備を整備し、いわゆる在宅勤務、テレワークなどの導入が進められている。メンタルヘルスに悪影響を与える要因として、残業時間管理が困難、ワークライフバランスの喪失、仕事の抱え込み増強、孤独感増強、ラインケアの希薄化など多くの課題がある。在宅勤務、テレワークにおいては、上司が労働者の心身の状態を確認するといったラインケアが困難となるため、ストレスチェックを複数回実施するなどして、不調者を早期に発見する対策の検討も必要となる。

産業保健スタッフが定期的にコミュニケーションをとるなどして、心理的に頼れる、助けを求める相手や方法を明確にしておくことはメンタルヘルス不調の予防に結びつく。

5) 精神保健、精神科医療の地域ネットワークの強化

COVID-19がもたらす精神疾患の新たな増加と既存の精神疾患の増悪に対応するためには、保健師、心理職などによる精神保健活動や心理相談、ゲートキーパー機能の強化、かかりつけ医と精神科医の連携、診療所と病院との連携といった地域精神保健・医療・福祉のネットワーク機能を格段に強化する必要がある。

また感染不安から従来の対面式診療が減っている。患者が受診しやすい環境作りが必要であり、今後は対面での診療に加えて、適宜、オンライン診療を活用できるように検討する必要がある[2]。

おわりに

COVID-19のパンデミックは、今ここにある危機とともに、長期にわたり国民のメンタルヘルスに甚大な影響を及ぼすことが予測される。このために、地域を基盤とした、強靱なメンタルヘルス対策をただちに講じる必要がある。日本がパンデミック被害から抜け出し、社会的、経済的回復にむけて動き出すときにも、国民のメンタルヘルスは変わらぬ重要問題であり続けるであろう。

[引用文献]
  1. 日本精神神経学会COVID-19関連情報(随時新情報を提供中) https://www.jspn.or.jp/modules/advocacy/index.php?content_id=78
  2. 日本精神神経学会精神保健に関する委員会、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する提言(2020年5月18日) https://www.jspn.or.jp/modules/advocacy/index.php?content_id=84
  3. United Nations Policy Brief: COVID-19 and the Need for Action on Mental Health. https://www.un.org/sites/un2.un.org/files/un_policy_brief-covid_and_mental_health_final.pdf
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