日本医師会 COVID-19有識者会議
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在留外国人のコロナへの対応

秋山 剛NTT東日本関東病院 精神神経科品質保証室 室長多文化精神医学会 副理事長
COI:なし
注:この記事は、有識者個人の意見です。日本医師会または日本医師会COVID-19有識者会議の見解ではないことに留意ください。
  • コロナウイルス流行初期のもっとも不安な時期に、在留外国人は情報から取り残されていた。
  • そして、情報格差によって、様々な誤解、困難や不利が生じた。
  • 現在、移住者と連帯するネットワーク(移住連)、東京都外国人コロナ生活相談センターや国際活動市民中心が支援を試みているが、「必要な生活情報届かない」、「経営難、解雇相次ぐ」等の様々な困難事例が報告されている。
  • 世界文化精神医学会(World Association of Cultural Psychiatry)では、外国滞在者や移住者への影響について把握するために、Special Interest Group を結成している。
  • 在留外国人が、「情報弱者」である現状を少しずつ改善していく必要があり、また、感染予防対策について、文化差を考慮に入れた対策を取る必要がある。
  • 在留外国人への支援について、包括的な方針、計画を行うための体制を整備することが望ましい。

情報格差の現状

在留外国人は、コロナウイルス流行初期のもっとも不安な時期に、情報から取り残されていた。例えば子供に特化した下記のサイトが流行直後に立ち上がったが、初期には外国人への情報がなかった。

世田谷区などもやさしい日本語で情報を発信しているが、外国人への情報の提供は、時期的に遅れていた。

こういった情報提供のインフラストラクチャ―の脆弱性(unpreparedness) のために、外国人・移住者・日本語を理解しない人たちに、様々な誤解、困難や不利が発生した。

支援の試み

こういった現状に対して、支援の試みも行われている。

移住者と連帯するネットワーク(移住連)のHPやFacebookには、多くの情報がアップされているほか、「医療・福祉・社会保障プロジェクト」も行なわれており、会員のメーリングリスト上で活発な情報交換がなされている。

また東京都外国人コロナ生活相談センター(TOCOS)がCINGA(国際活動市民中心)NPOと連携して、相談を行っている。

企業の対応としては、社員に対するメンタルヘルス支援プログラム(Employee Assistance Program)に依頼して、外国人社員への相談を行っているところもある。

事例

在留外国人の困難や不利については様々な事例が報告されている。

  • 「移動が制限され家族と離ればなれになってしまった」
  • 「(母国で)出身の町がロックダウンされ、親族が亡くなり、日本に滞在しているストレスを強く感じた」
  • 「仕事が解雇になり、収入がなくなり、貯えが底をつき、重いうつ病を発症した」
  • 「日本語が堪能な男性が、工場職員の解雇にあたり、派遣会社が社員に失業手当を一か月しか払わないため、解雇される同僚に失業手当が一か月しかでないことを説明し納得させる役割を押しつけられた」
  • 「未就学児~小学生の子供を持つ母親が、在宅勤務となっても子供がいるので仕事に集中できない」
  • 「派遣でホテル清掃の仕事についている人が、収入がなくなり、自分の生活が困窮するほか、仕送りに頼って生活している母国の家族に送金できなくなった」

世界の動き

世界文化精神医学会(World Association of Cultural Psychiatry) では、COVID-19が、外国滞在者や移住者に及ぼしている影響について把握するために、Special Interest Group を結成している。

このグループでは、見解(Statement)を発表しており、COVID-19への対応について、各国が他国の対応例から学ぶことの重要性とともに、COVID-19への対応についても、各国の文化の影響に注意を払うべきであることを指摘している。

マスクの着用などの、感染予防対策についても、文化によって受け止め方が異なり、文化差を考慮に入れた対策を取ることを勧めている。

おわりに

在留外国人が、「情報弱者」である現状を少しずつ改善していく必要がある。情報提供体制の脆弱性は、災害時に露呈する。

わが国においては、在留外国人への支援は、各省庁、自治体、学会、NPO法人などで、ばらばらに行われており、包括的な方針、計画といったものが存在しない。この体制についても、改善を図る必要がある。