佐藤 朋子 | 国立国際医療研究センター病院 看護部長 |
COI: | なし |
2020年3月下旬、新型コロナ受け入れ患者数の増加に伴い、病院長を対策本部長とする対策本部が、政府の緊急事態宣言前に立ち上げられた。対策本部では、感染のPhase1~3を設定し、日々の医療レベルを決定、共有した。
院内で「重症・重篤部会」「中等症部会」「発熱相談外来部会」「外科系部会」の4部会が設置され、それぞれの部会は医師が部会長を務めた。副対策本部長は、副院長、国際感染症センター長、救急センター長、看護部長、統括事務部長が担い、病院にとって最も良い運用となる決定ができるよう、診療部や事務部門と情報を共有・協議した。
特に、phaseの変化時に、一般診療をどのタイミングで回復させていくかは、病院経営に大きな影響を与えるため、この会議での重要な決定事項であった。それぞれの部門の人的資源、物的資源など現場の対応が可能であるかを部門ごとに判断し、その中で病院としての可能な対策を決定した。
対策本部会議の決定に従い、看護部長は看護組織として最大限の力が発揮できるよう、看護部門を管理する役割を担った。看護管理者の能力は、次の6つに要約される[1]。
今回、新型コロナウイルス患者を受け入れるために看護組織を新たな体制へと変化させ、部門を管理する必要があった。
「看護体制の継続」、「看護部全体で新型コロナウイルス患者を受け入れるための組織風土の醸成」、「隔離状況での看護」の3つの視点から具体的な看護管理について、国立国際医療研究センター病院の経験に即して述べる。
図表1 |
対策本部組織図 |
図表2 |
COVID-19の発生状況と診療体制 |
看護職員の感染管理は常に、国際感染症センター医師・看護師に相談しながら実施した。
防護服を正しい方法で装着することは勿論だが、手洗い、手指消毒の重要性を看護職員に周知徹底した。
また、感染への不安から過剰な防護服等の装着につながる可能性もあり、物資の不足を防止するため必要以上の防護を控えることの重要性を、職員が理解できるよう説明した。
看護職は日中の勤務帯の休憩時間において、各看護単位の休憩室に集まり食事をする習慣であるため、休憩時間中は職員間での感染の機会となり兼ねない。食事はソーシャルディスタンスを保つことができるよう、食事時間が重ならないように、休憩室以外の食事場所(例えばカンファレンスルーム)を確保した。
これにより看護職員が休憩時に接触をお互い極力避けることができた。
勤務前の体温・体調チェックの徹底と体調変化時に相談しやすい職場環境を構築した。
看護職員には勤務前の体調チェックを義務付けた。看護職員は体温測定、新型コロナウイルス感染症状の有無をチェック表に記載し、看護師長(日勤リーダー)が勤務者の体調を把握した。
また少しでも体調に変化を感じた時には、看護師長に報告するよう促した。
東京都の新型コロナ感染者数より、市中感染を防ぐことは困難性が高いことであると考え、少しの体調変化であっても上司に相談しやすい関係性を構築するよう努力した。2020年5月末現在までに実際に勤務を中止し、感染症外来を受診した件数は80件であった。
当院では、新型コロナウイルス患者を、ICU(6床)、結核・一般病棟(結核22床、一般18床:疑い患者)、一般病棟(15床:疑い患者)の3つの病棟で受け入れた。
病院全体で新型コロナ患者への医療に力を集中させるためには外来や手術を縮小せざるを得ず、入院患者も減少した。一般診療の縮小により、新型コロナウイルス患者が入院する病棟と、それ以外の病棟との重症度、医療・看護必要度に大きな差ができた。平常時は重症度、医療・看護必要度の病棟間での差がないよう病床管理を行っているが、それが困難な状況となった。
新型コロナ患者が入院している病棟は重症度、医療・看護必要度が高いため、その病棟にできるだけ看護師を投入する体制をとった。
一般病棟の看護師長は前日に、自身が管理する病棟の状況に必要な看護師数を明らかにすると同時に、他病棟の応援に出すことができる看護師数を担当副看護部長に報告した。報告を受けた副看護部長が新型コロナ患者入院病棟の状況を把握し、どこの病棟に何人の看護師を配置するかを決定し、前日中(16:00頃)に看護師配置一覧表を用いて看護師長と情報共有した。当日は、夜勤看護師長からの引継ぎ後(9:00頃)に、夜間の入院患者を考慮した最終的な配置の微調整を毎日行った。
新型コロナウイルス患者が増加したり、重症度が高くなったりした病棟に支援体制をとることが当然という考え方が浸透し、看護師長は自主的に、自身の管理する病棟からの応援が追加で可能になったことを副看護部長に随時報告するなど、徐々に看護部全体で看護人員を融通し合う組織風土が醸成されていったと考える。
現場の看護師たちが、「感染症看護は当院のミッションである」というプライドを持ち、支援体制の中で日々の看護を継続していたことが、組織風土醸成の大きな原動力となった。
また、本部対策会議での決定事項に沿って病棟看護師長はベッドコントロール看護師長と相談し、その日の状況に応じた新型コロナ受け入れ病棟の病床運用を決定した。例えば、Phase2であってもECMOの稼働台数や重症度により看護師の配置数は異なるため、日々適切な看護配置や看護体制がとれるよう心掛けた。
看護師の精神的負担に関してはリエゾン専門看護師を中心に看護師へのメンタルケアを指示し活動時間を担保した。以下、新型コロナ患者を受け入れた看護師の精神的負担を重症者、中等症者、疑い者に分けて述べる。
重症者はICUで受け入れた。患者一人を看護師一人で受け持ち、ベッドサイドでケアをする際には防護服を着用することとなる。普段は直接患者に触れるなど五感を使って観察をするが、防護服を着ることで自身の観察力が普段よりも劣るのではないかという不安があった。
アラームが鳴っても防護服を着てからベッドサイドに行くこととなり、対応が遅れるのではないかという不安もあった。
重症患者のケアは普段から行ってはいるが、普段通りにできないことにストレスを感じていた。
中等症患者は感染症対応の病棟で受け入れた。ICUほど重症な患者ではないが、その分、看護師一人で複数の患者を受け持ち、一人ひとりの患者の部屋に入るごとに防護服を着用する必要があり、負担感が増した。
防護服は脱ぐ時に感染のリスクが高いことへの不安など、普段の看護よりストレスを感じていた。
疑い患者は一般病棟で受け入れた。PCR検査の結果が明らかとなるのは夜勤が始まる19時頃であり、その後他病棟への転棟となった。転出・転入病棟どちらにとっても、夜勤の看護師数の少ない時間帯での患者移床が連日続き、夜勤者に負担感があった。
新型コロナ患者は隔離が必要であり、防護服の着脱に時間がかかること、疑い患者の個室収容による夜勤帯での転棟など、普段以上の看護業務量となり精神的負担につながっていた。
新型コロナ患者は隔離が必要なため、家族の面会ができない状況であった。
本来、重症患者やターミナル患者の家族は、面会時に患者の状態を把握しながらその病状を受け止めていく。しかし、面会が禁止であったため、家族は患者の状態を把握することが困難だった。
ターミナル期の患者家族には、例外的に防護服を着ての面会を許可していたが、患者家族も高齢者が多く感染を恐れ、面会を希望することは少なかった。そのため、患者の状態を少しでも家族が理解できるようタブレットを用い、患者の様子を家族に伝えた。
家族からは、「側に行けなくても様子がわかって良い」との声があった。家族にとっては、直接面会することによる患者の状態の理解や病状の受け止めには及ばないが、患者の状態を受け入れる一助になったのではないかと考える。