阿南 英明 | 神奈川県健康医療局医療危機対策本部室 医療危機対策統括官(藤沢市民病院 副院長) |
COI: | なし |
神奈川県では、全国に先駆けてクルーズ船ダイヤモンドプリンセス号の患者受け入れで、地域医療に大きな負荷がかかった。この経験を分析し、その後に始まった市中蔓延に対して全国に先んじて様々な対応、施策を構築した。「神奈川モデル」と呼ばれる医療体制の骨格に加え、様々な特殊条件に合わせた体制を調整してきた。ダイヤモンドプリンセス号の課題分析と、その後の体制構築の考え方に関して概説する。
3711人の乗員乗客を乗せた大型クルーズ船のダイヤモンドプリンセス号は、2020年1月20日に神奈川県横浜市にある横浜港を出港し、台湾、香港、東南アジアを経由して2月3日に再び横浜港に帰港した。しかし、2020年1月25日で下船した乗客が、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染していたことが判明し、厚生労働省横浜検疫所はこの船を横浜港内に停泊させ検疫を開始した。つまり乗客・乗員は船から降りることなく、14日間の健康観察をすることを決めた。連日PCR検査を実施し、結果的に全国16都道府県の医療機関へ769人の患者を搬送した【図表1】[1]。このような大規模な検疫は未経験であり、下記に示すような初期対応の課題が噴出した。
図表1 |
ダイヤモンドプリンセス号からの患者搬送 |
神奈川県横浜市にある横浜港での出来事であるが、この対応の主体がどこにあるかで混乱した。当時、中国武漢での大流行に対して、政府はチャーター便による邦人帰国を実施、検疫とホテルへの搬送、さらに健康観察が行われた。超法規的措置であるがゆえに、国が直接様々な調整と対応を行った。こうした状況下で突如発生したクルーズ船対応も、政府・国主導で行われると自治体は考えていた。ところが航空機の定期便と同様に、国際空港や国際港では、厚生労働省検疫所の検疫以降は、感染症法に基づき自治体対応になるのであった。しかし自治体として横浜港のある横浜市が主なのか、都道府県として神奈川県が対応するのかでさらに混乱した。実際には、国から2月4日に、神奈川県に対応を依頼してきたが、後に横浜市へ依頼すべき事項であったという見解となった。
国は船内に乗員乗客を留めて、PCR検査を実施することにした。こうした行為は検疫法に規定された行為である。法で対象とした感染症や、国民の健康に重大な影響を及ぼす感染症の侵入防止を目的に、海外から来航する船舶に対して行う。患者を発見した場合には、隔離、停留、室内の消毒等の防疫措置を行うことになっている。
検疫の考え方は、1377年のペスト流行時に、潜伏期の30~40日間を隔離することで新たな病気の進入を防ぐことが有効であったことから始まった[2]。しかし、当時とは異なり、現代では遺伝子レベルで病原体の有無を判別するPCR検査が出現し、検疫のあり方は変化した。
症状の出現以外に病原体の有無を検出する判断をするためには、検疫対象数に比べて、医療力が相当に大きくなければならない。現代の船は大型化して乗客、乗員数は大きく膨らんでいる。3700人にも及ぶ検疫を想定していなかったはずである。そのために船内で感染が拡大した場合には、乗客や乗員の病原体保有者を全て拾い上げる作業は非常に困難になった。
船内での健康観察やPCR検査の実施は検疫法に基づいて実施されたが、陽性が判明した時点で上陸して感染症指定医療機関へ入院させる必要があった。つまり、陽性が判明した際に感染症法が適用されることになる。感染症法では、患者の診療を行った医師が発生届を所管保健所へ提出する(①)。所管保健所は、患者の居所と規定される。届出を受けた保健所は、患者に対して入院勧告をする(②)。この入院勧告が、患者の入院治療費を公費で賄う根拠となる。さらに入院する医療機関が、届出を受け付けた保健所と異なる所管の場合には、その情報は医療機関のある保健所へ提供され、入院勧告が行われる(③)。ではこのダイヤモンドプリンセス号ではどうだったのか。
しかし、連日陽性が判明し、多い日には99人の陽性が確定、次々に患者を医療機関へ入院させる調整を行った。PCR検査を進めることと、陽性者の搬送入院が優先される中で、検疫所が発生届を提出し、受付ける保健所が適切に全国保健所へ連絡する作業を滞りなく実施することは、至難を極めた。実際の作業は数カ月停滞していたと聞いている。すなわち、船から各受入れ医療機関へ入院させることが優先され、正規の入院勧告もままならず、各種手続きは後回しにならざるを得なかった。
新型コロナウイルスの問題は、感染症である。従って、医学医療の世界では内科、感染症科、呼吸器内科の医師が、保健所と協力して必要な検査を実施し治療をすることが想定される。
連日多数のPCR陽性患者が発生したので、入院施設の確保や搬送の対応は非常に困難だった。このように検疫によって大量の感染症患者が見つかり、医療機関へ収容する事態は、かつて我が国で経験したことのない一大事であり、混乱が起こることは明らかだった。患者を適切な医療機関へ搬送するにあたっては、いくつもの障壁があった。医療機関の特性として、誰でも受け入れるということはない。特に新型コロナウイルス感染症は感染症法の指定感染症(2類感染症相当)とされたので、症状の軽重によらず感染症指定医療機関に入院させる必要があった。各指定医療機関に対してPCR陽性患者の入院を依頼して、時間調整のうえ下船させて、用意した車両で搬送しなくてはならない。搬送手段として新型コロナウイルスのように感染症法で1類、2類に指定された感染症(病原性が高く危険な感染症)は、消防救急車以外の搬送手段を用いなくてはならない。
こうした作業を搬送調整と呼ぶのだが、患者数が増えれば増える程、大変な作業になる。どの患者をどの手段でどこへ入院させるのかについて、上手くマッチングさせて患者を安全に搬送、入院させることは容易でなく、消防も県庁職員もできることではなかった。このように通常の対応が困難であり、非常事態として対応する必要があった。すなわち「災害」としての対応である。災害で混乱した事態を収拾することに長けているのはDMAT(災害派遣医療チーム)であり、以前から地震、風水害などの被災地での患者搬送調整の経験が豊富であった[3]。こうして神奈川県はこの事態は「災害」であると宣言し、DMATによる対応を決定した。2月6日から26日まで神奈川県庁内にDMAT本部を設置して、患者が入院する病床を横浜市及び神奈川県内外の感染症対応病院から選定し、搬送手段確保、実搬送などを実施した。
感染症であるがゆえに、患者の診療に当たってはマスク、ガウン、フェースシールド(ゴーグル)、手袋など個人防護具(PPE)の装着が必須である。入院した場合には部屋や病棟を仕切るなどのエリア分け(ゾーニング)が必要になる。患者に直接接触する人員と、記録や資材、機器の提供を担当する人員の分離が必要であり、非常に非効率な運用になった。人的負担は通常の2~4倍に相当していた。コロナウイルス患者の中で具合の悪い患者の医療機関での受け入れは救急外来であり、さらに重症化すればICUに収容される。病院のスタッフは厳重な防護具を装着して患者の診療、手術をする必要があり、入院病室も感染症対応できる個室を用意する必要があった。病院の負担は大きく、一般の救急診療を制限して対応せざるを得ない場面が生じた。次第に横浜市内、神奈川県内の救急病院での受け入れが困難になり、まさに医療崩壊の危機に瀕していた。
①高齢者や基礎疾患を有する人への配慮:船内で感染が拡がりつつあることが判り、乗客は各部屋からの外出を禁じられる措置が取られた。船の乗客の多くは高齢者であり、様々な基礎疾患を保有者も多く、やっと横浜港に到着したのに、下船が許されない状況は心身に大きなストレスになった。検査を受けることを待っている間や、結果が判明するまでの間に具合が悪くなる患者が発生した。コロナウイルス感染による肺炎など呼吸器症状が出現する人に限らず、持病の悪化、急性心筋梗塞など、高齢者であれば日常の生活の中で発生し得る種々の急病が連続した。高齢者や基礎疾患を有する人に対しては特別な配慮が必要である。
②軽症・無症状者入院の再考:搬送した769人のうち多くは軽症者または無症状者であり、特に若い世代が大半を占める乗員は、終始元気な患者であった。当時こうした軽症者・無症状者も法に基づいて入院が必要であり、退院するためにはPCR検査で2回陰性の確認が必要であった。そのために非常に長い期間病院の病床を塞ぐことになり、病院の負担を大きくする要因になった。こうした患者は必ずしも入院でなく、自宅療養、入院以外の方法での隔離に留める方法を模索する必要がある。
③入院先マッチング負荷の軽減:毎日多くのPCR陽性患者が確定する中で、どの患者を、どのような方法で、どの医療機関へ搬送するのかを調整する作業は、非常に大きな負担であった。医療機関は日常医療でも、どのような患者なのか情報を求め、一人の患者の入院先を決定するのに大きな負担がかかる。多数の患者に対応するためには、毎日の入院・空床情報などリアルタイムな情報収集のシステム化や、多数の患者を集約的に入院させることが可能な施設の存在が必要であった。
④ICU負荷の軽減:重症の新型コロナウイルス感染患者の管理は、感染防護の観点や人工呼吸器に加えてECMO装着など、人的物的資源の荷重が大きい。一部の医療機関に重症COVID-19 患者が集中することは、大きな負担であるとの声が各医療機関から寄せられた。特殊な高度医療機能を求められるICUは、機器に限らず勤務する医師、看護師を簡単に増やすこともできない。広くICUを持つ医療機関に対して応分の協力を求め、一部の医療機関に過剰な負担がかかることを避けることが重要であった。
図表2 |
ダイヤモンドプリンセス号の経験から得られた課題と教訓 |
ダイヤモンドプリンセス号で発生した多数の患者対応の経験は、この後に我が国を襲うウイルスの蔓延対策に大いに役立てなくてはならない。神奈川県としては全国に先駆けて様々な施策を打ち出して、他の都道府県でも生かしてもらうことが重要であると考えた。COVID-19 の患者は、人工呼吸器、ECMOを必要とする患者から、軽症または無症状で何ら治療が必要ないものまで様々であったことから、一律の医療提供では適切に対応できない。【図表3】のように、重症度から3つのグループに分けることにした。さらに医療機関も高度医療機関、重点医療機関及び重点医療機関協力病院の3種類を認定した。こうした考え方の基本理念は「役割分担と機能集約」である。
図表3 |
重症度の3分類と医療機関分類 |
患者の重症度や各々対応する医療機関を認定したが、精緻に分類することに主眼があるわけではない。患者が発生して検査を実施、入院が必要な際に滞りなく医療機関への入院、療養が開始される体制を構築することに意義があった。【図表4】にあるように診断時点で重症や軽症の判断ができない場合でも、調整に手間取ることがない様に大きなフローを真ん中に構築ことに最大の意義がある。その点で中等症を受け入れる重点医療機関・重点医療機関協力病院が大きな役割を果たした。このように役割分担と機能集約を基本として現場調整をサポートするように、神奈川県庁にDMATの医師を配置して搬送調整機能を担保した。
図表4 |
神奈川モデルにおける患者発生から入院、療養のフロー |
神奈川モデルで示されたこれらの役割分担の機能集約は基本形として定めたが、全ての患者が当てはまるわけではない。診療領域毎の個別性や特殊性に合わせてアレンジした仕組みが必要であり、以下に示す様々な亜型を整備した。
など。
ダイヤモンドプリンセス号の経験において、どの医療機関にどれだけ入院が可能なのかなどの病床情報を、リアルタイムで把握することは、滞りなく患者を適切に搬送調整するために欠かせない情報であった。先に述べた各種認定した医療機関は、「Kintoneシステム」に毎日新型コロナウイルス患者の現入院数と新たに収容可能な空床情報を入力し、医療機関間や本部で共有活用している。その他にも、人工呼吸器やECMOなどの医療機器の使用状況や各種防護具やアルコールなどの医療資機材の需給状況などの把握は、長期にわたる県域全体の運用に非常に重要である。これらの情報を毎日把握するシステムを神奈川県ではいち早く整備し、個々の医療機関では入手困難に陥った感染防護機材を、県から供給することに活用してきた。非常に重要かつ有用なシステムであることから、その後国に提供し、現在はG-MISとして全国で活用されている。
また、軽症者の自宅や宿泊施設での療養者フォローに関して、保健所から電話による確認が求められていたが、神奈川県では当初よりLINEアプリを活用し、一日に二回健康観察が可能な体制することで、人力の削減を実現した。
図表5 |
ICT活用と情報共有システムの活用 |
医療逼迫の要素になりうる問題として、高齢者を多く入院させる慢性期の病院や介護福祉施設内でのクラスター発生の問題がある。急性期病院とは異なりこれらの施設では、日常的に自力で強力な院内感染対策を実施することが困難である。こうした施設にも患者は発生し得るので、患者発生早期に介入して、大規模なクラスターへの進展を抑止することが重要である。こうした現場への調査や感染対策指導は、保健所の本来業務であるが、市中に蔓延した場合は、保健所は非常に多くの業務を抱え十分な対応が困難になることも予想される。そこで、県庁内にクラスター対応するチーム(C-CAT)を設置した。保健所の依頼により、現地の接触者などの疫学調査、感染対策指導、緊急物資供給、患者の搬送調整支援に加え、最近はPCR等の大量の検体採取支援も加えた対応を行い、感染が終息するまで継続的な支援を実施することとした。【図表6】
図表6 |
C-CATの活動内容 |
新型コロナウイルス感染症患者に対応する仕組みは非常に重要である。しかし、どれ程COVID-19 患者が増えたとしても、他の疾患がなくなるわけではない。急性心筋梗塞・脳卒中・外傷などの救急疾患、現代日本国民の2人に1人は罹患するとされる悪性腫瘍、その他の慢性疾患など決して対応を中断することができない疾患があることを忘れてはならない。新型コロナウイルス感染症に全力投球するだけでは、我が国の医療は維持できない。「医療崩壊の回避」は我々の対応の基本的目標である。医療崩壊とは新型コロナウイルス感染症に十分対応できない状態を指すのではない。COVID-19 を含むあらゆる必要とされる医療提供が困難になることを指す。ダイヤモンドプリンセス号の対応において横浜市、神奈川県ではCOVID-19 患者対応に追いまくられて、通常救急医療に対応できなくなりかけた。こうした状況が正に医療崩壊である。
第1波を乗り越えて、一時期抑制していた緊急を要さない医療(手術、入院、外来)を6月以降再開し、同時に国家として社会・経済活動を再開することを決定した。医療は様々なモニタリングを行いながら、再度コロナ患者が増えた際には、不急部門の抑制やコロナウイルス対応病床の拡大を行うことになる。一方、社会経済活動の活発化は、駆逐されたわけではないウイルスが一定程度社会に浸透することを覚悟せざるを得ないであろう。そうした中で我々は何を優先して守るべきか明確にする必要がある。慢性期病院に入院している患者、福祉施設などに入所している高齢者、学校や幼稚園・保育園の子供など、社会的、医学的な弱者に対して、早期の検査介入など保護に努めること必要である。一度感染が拡大して多数の患者が発生すれば、各施設運営が困難になるうえ、医療機関への入院数が急増することになる。社会不安抑止や医療機関負荷の軽減に努めることが重要である。【図表7】
図表7 |
Withコロナ社会での両立と優先保護対象 |
我が国に新型コロナウイルスが上陸した際から、新興感染症として保健所を介して各地方衛生研究所などでPCR検査は行政検査として始まった。その後PCR検査体制の充実がメディアを通して社会的要望が強く、民間検査会社での実施拡大方針を打ち出した。しかし患者の自己負担をなくすために行政機関と医療機関の事前契約を前提とし、解釈上は行政検査のままである上に、依然医療機関での検査実施体制の拡大は進まなかった。その結果医療機関で検体を採取した後に保健所が検体を回収し、衛生研究所で検査が行われて、結果が数日後に返される状況が長く続いた。
このように医療機関での検査が実施されない背景には、様々な要因があったと考える。我が国の医療機関は、もともと地域の基幹病院クラスでも、PCR等の核酸増幅法検査機器を運用していなかった。このことは先進欧米諸国とやや趣が違うことであったかもしれない。また従来型の検査機器運用には高度の臨床検査技師技能が求められ、感染防止の観点から一定程度のスペースと設備が必要であったために、医療機関としては容易に検査体制導入には障壁があった。さらに、これら核酸増幅検査機器も検査に使用する試薬も海外生産に依存しており、6月頃までは発注してもいずれも入手が困難な状況が続いた。検査数や患者数増大した状況においてこうした体制は、一般医療の概念から非常に解離している。通常医療機関は病気になった患者を診療して、必要な検査を実施し、迅速に診断を行い、適切な治療を行う。ポピュラーな疾患ほどこのサイクルが早いであろう。ところが新型コロナウイルス感染症は急速に感染拡大したにも拘らず、患者が受診した医療機関で診療、検査、治療が完結しない状態にあった。これに関しては、医療機関においてPCR等の核酸増幅法検査が実施できる体制を確立する必要がある。
神奈川県では、特に救急診療をする医療機関や神奈川モデルに参画する医療機関に対して、PCR等の核酸増幅法検査の配備を進めている。また特殊な技能を要求される本検査に関して、臨床検査技師を対象とした実技研修を展開し、スペースや感染対策がより簡素化する新たな検査機器を理化学研究所と共同開発を行った。もちろん各診療所レベルまでは困難なので、可能な限り多くの診療所には外注検査が可能な契約をお願いしている。こうした取り組みで、上述したように今後増大するクラスター対策で業務負担が増大する保健所での検査と、有症状者を対象にした医療機関での検査との役割分担を明確化するよう進めている。【図表8】
図表8 |
医療機関での検査と保健所での検査の役割分担を明確化 |
とはいえ、感染症診療現場でのPCR検査の位置付けに関して、臨床医は大きなパラダイムシフトを求められる事実を承知しておく必要がある。元来臨床医は、感染症を疑った場合、他の検査を駆使し鑑別、絞り込みを行い、最終確認作業としてPCR検査をしたのではないだろうか。例えば結核を疑って、いきなりPCR検査はしていない。抗酸菌染色顕鏡をして抗酸菌の存在を前提で、確定診断としてPCR検査を実施しているであろう。
しかし、今後は、最初の鑑別段階からPCR等の核酸増幅法検査を導入していくことに考え方を変換することを、臨床現場のコンセンサスにしなくてはならない。前述したごとく医療機関で検査が完結できる体制が確立された場合には、今後発生する新興感染症対策としてもこうした検査能力の向上は大いに役立つ。しかし診断の最初の段階でこれらの検査を導入した場合に、陽性的中率などの限界を理解し、陽性が感染性ウイルスの存在を示すことではないことや、陽性陰性結果が万能でないことを十分に理解して活用しなくては、医学の正義はなくなるということだけは肝に銘じる必要がある。診療過程の最初にPCRなどの核酸増幅法検査を位置づけた時に、「陽性だからCOVID-19患者」、「陰性だからCOVID-19 患者ではない」と短絡的な判別・診断をする医師が出てこない様に、注意喚起を怠ってはならない。
横浜港に現れた強大な船は、現代に現れた「黒船」(船体はきれいな白だが)のごとく、我が国の感染症医療に大きな衝撃を与えた。しかしその経験は、後に我が国を襲う市中蔓延対策に様々な課題と教訓を残した。その教訓を生かし神奈川県の取り組みが行われたが、その取り組み自身にも限界があり、そのまま全国で活用できるわけではないであろう。特に神奈川モデルは都市型の地域に適した仕組みであることは承知している。しかし、何もないよりは議論のたたき台として活用できるはずである。先に経験した神奈川県であるからこそ、先んじて様々な取り組みをして、これから拡がるかもしれない各地域で活用できる内容を提供する責務があると考えている。