有賀 徹 | 独立行政法人 労働者健康安全機構 理事長昭和大学名誉教授 |
横田 裕行 | 日本体育大学大学院 保健医療学研究科 研究科長・教授日本医科大学名誉教授 |
COI: | なし |
日本救急医学会と日本臨床救急医学会の両代表理事による声明[1]にあるように標記感染症の蔓延に伴う困難な状況が救急医療の、そして地域の全般的な医療の逼迫となって現実化している。このことは、感染症指定医療機関のみならず、地域の中核病院、特定機能病院などにおいても院内感染が生じたことによって深刻の度を一層深めている。従って、今や下記の2つが喫緊の大きな課題となっている。
そこで、地域によっては、中等症以上の新型コロナウィルス感染症患者の入院治療を担当する病院と、発熱・接触者外来を行うとしてもその入院治療には与らずに専ら一般の救急患者の入院治療に大きな機能を発揮する病院とに分ける、そのような柔軟かつ早急な医療提供体制の構築を提案する。
これは、1つの病院内における「新型コロナウィルス感染症患者」と「そうでない患者」の両方への同時の入院治療に伴う院内感染を避けることによって、前者と後者の患者それぞれに係る病院の機能を共に温存し、それを以て地域における1と2を成し遂げようとする戦略である。地域によってはこのような策が功を奏すると思われる。
ある実例によると、発熱・接触者外来を担当しつつも、入院医療については新型コロナウィルス感染症患者の受け入れはせずに従来からの重症救急患者への診療機能をひたすら発揮している病院と、新型コロナウィルス感染症患者の入院診療を優先的に担っている病院とに分離しての医療提供がなされている。このことによって冒頭の1を維持し、2に示す地域病院医療の全滅を回避すべく同地域ではこの方針を堅持している。
一方で、行政からは高機能を有する病院において、等しく中等症以上の新型コロナウィルス感染症患者の入院治療を促す提案がなされている。しかし、この方法では冒頭の1ならびに2の課題に対応できない地域が出てくることが危惧され、日々の報道もこのことを示唆していると思われる。
院内感染の波及による病院機能の縮小は上述の通りであるが、そうでなくとも当該感染症が疑われれば一般の二次救急医療を担う医療機関が院内感染を回避するためにその患者の収容を躊躇することは想像に難くない。また、それを安易に非難することもできないであろう。このような状況によって救急医療の最後の砦たる救命救急センターには当該感染症患者、ないしその疑いのある患者が搬入されることになり、その結果、三次救急医療を担う機能が大幅に削がれることになる[2]。この状況に鑑みて、迅速なPCR検査体制の構築も極めて重要となる。呼吸器症状などがあり入院が必要と考えられる症例を迅速なPCR検査にて新型コロナウィルス感染症と素早く診断できれば、その入院診療を優先的に担っている病院に的確に搬送できる。この迅速な検査体制を基盤としたトリアージ(振り分け)も、上記の分離の試みを一層効果的なものとする重要なポイントとなる。
日本医師会は都道府県医師会ならびに郡市区医師会に対して、新型コロナウィルス感染症の患者増加時における具体的な体制構築について「協議会」の設置などの通知を発出している[3]。加えて、厚生労働省からの発出においても、地域の実情に合わせて柔軟に対応し[4]、新型コロナウィルス感染症を重点的に受け入れる医療機関(以下、重点医療機関という)を設置する[4][5]ことへの言及もあり、本提言の求める戦略に選択の余地を読み取ることができる。
地域医師会において入院治療の必要な中等症以上の新型コロナウィルス感染症患者への対応について、上記のような対応病院の分離が奏功すると思われる地域では、それが具現化できるよう早急に協議をお願いするものである。今回のような困難な現状においても、基礎疾患を有する患者や重症化しやすい状態の患者ら皆が安心して掛かることのできる医療機関が確保されることも重要である。刻々と変化、進展する現状に柔軟に対応できる医療提供体制の構築についての対応が望まれる。