鳥羽 研二 | 東京都健康長寿医療センター 理事長国立長寿医療研究センター 理事長特任補佐 |
安樂 真樹 | 東京都健康長寿医療センター 呼吸器外科 部長 |
許 俊鋭 | 東京都健康長寿医療センター センター長 |
秋下 雅弘 | 日本老年医学会 理事長東京大学医学部老年病科 教授 |
COI: | 未確認 |
世界の新型コロナウイルス感染症による死亡は30万人を越え、特に欧米における福祉施設での死亡数は、英国で1万人が死亡するなど深刻である。
本邦では死亡者は諸外国より少ないものの、死亡率は70歳で5%、80歳以上で11%(4月21日データ)とされている。
活動範囲が狭く感染機会が少ないが(板橋区では70歳以上の割合は、29/144,20%)、一旦感染すると重症化しやすい理由には、感染ホスト(宿主)の機能を考える必要がある。
免疫機能を全般に大きく低下させるものは、低栄養が最も重要で[1]これをもたらす、がんや慢性消耗性疾患は加齢により増加する。
老化により、T細胞性免疫機能特に抗原提示細胞に対する応答が低下し、インフルエンザ、肺炎球菌、結核などにより重篤化しやすくなる[2]。
在宅介護ではどうであろうか?
また、免疫機能はADL(Barthel Index)や意欲(Vitality Index)とも相関し、感染予防に注意しつつ、在宅におけるリハビリテーションや、本人の意欲の向上に資するデイケアなどのサービス再開が望まれる。
新型コロナウイルス関連での味覚低下に関しては、介護状況だけで亜鉛の有意な欠乏は示さず、要介護高齢者においても味覚低下は、新型コロナウイルス感染の手がかりとして有用と推察される。
図表1 |
要介護高齢者の抗原提示細胞に対する反応 |
痰だけでなく、唾液に多くのウイルスが存在することが判明し、高齢者に特有な病態の理解が感染拡大予防に一層重要になって来ている。
喀痰咳嗽は、一般の高齢者の入院入所者では5人に1人に見られ、介護看護職にとってマスク、フェイスシールドは必需品と言える。
また、食事介助が必要な嚥下困難は、3人に1人に上る【図表2】[4]。
これらには高頻度に口腔衛生のケア、食事介助、誤嚥やむせに対する直接介護など、唾液に被曝する濃厚な機会が非常に多いことを意味する。
この中で本邦の介護施設における感染率の低さは、教育や啓発予防活動の賜物と特筆したいと思う。その上で、もう一度介護のリスクについて理解し、フェイスシールドの常時の使用を徹底してほしいと考える。
当院では、感染疑いの認知症高齢者が病棟を移動し看護師など濃厚接触者複数が自宅待機となった。
幸運にも、患者さんも医療従事者もPCRで陰性だったが、介護施設において、特に夜間の施設内一人歩きなどに関する濃厚接触に関し、原則抑制禁止の通達の例外に関する、厚労省の公式見解が求められる。
図表2 |
老年病診断学の独自性、内科との相違 |
在宅介護、老人保健施設、療養型病院、大学病院 計487名の調査である。常時喀痰を認める人も多い。 |
当院では、4月から地域連携検査外来で、現場で奮闘するかかりつけ医の要請に応じて毎日最大9件までPCRを施行し、発熱外来を含め、早期発見に努めるとともに、25名の看護師を東京都の宿泊療養施設に派遣し、在宅復帰のお手伝いをして来た。
さらにECMOが必要な重症肺炎を受け入れて来た。
この間感染予防と接触者の自宅待機とPCR検査を徹底し、幸運なことに院内感染も発生せず経過して来ている。
重症例では、一般の高齢者肺炎のケアに加え、下記を行っている。
抗菌薬以外の肺炎治療・予防対策
呼吸器専門家による、CT所見での無気肺部分にフォーカスした連日の気管支鏡による、去痰、分泌物除去を行い、腹臥位による沈下性肺炎 (背臥位で重力により細気管支のより低い部分に粘液が溜まり、気管支線毛の浄化機能が損傷され肺炎をきたす状態) の改善、二次性血管内皮障害予防の投薬、抗血栓療法(ヘパリン)、適切な体液管理、必要に応じた血液透析を、ファビピラビル(アビガン)、レムデシビル、ナファモスタット(フサン)などと組み合わせて、ECMO(注) 2例が全て改善して、ECMOから離脱できている【図表3】。
図表3 |
ECMO使用重症例の臨床経過 |
世界で最長寿国である本邦では、誤嚥性肺炎に対する医療も世界一であり、特に老年医学や慢性期医療病院では、肺炎ではないと見放して治療を放棄することは決してない。
再発を繰り返す誤嚥性肺炎に関して、誤嚥のメカニズムを科学的に理解し、口腔ケア、喀痰排出のケアを丁寧に行って肺炎を改善する献身的なチーム医療は今回の新型コロナウイルスの肺炎治療にも生きていると思慮される。
新型コロナ対策で、三密を避けることの重要性は今般の自粛による新規感染の減少に効果があり重要であることが示された。
一方、外出を控え社会との繋がりが希薄になることが長期に及べば、些細なストレスが生活機能の低下につながる「フレイル」の進行が危惧される。
筋力は、膝関節を2週間固定すると高齢者で23%低下すること[5]、認知機能は、仮設住宅で週3回の外出あるいは30分/日の散歩をしなかった人はした人に比べて低下しやすかったことが論文で示されている(東北大学と老年医学会の共同研究)[6]。
これらの知見を踏まえ、
で、フレイル予防のノウハウを公開している。是非アクセスして在宅での運動、栄養の参考にして欲しい。
図表4 |
運動チェック |
図表5 |
栄養チェック |