日本医師会 COVID-19有識者会議
1.病態生理, 診療
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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と腎臓病

柏原 直樹日本腎臓学会 理事長川崎医科大学 副学長・腎臓・高血圧内科学 教授
COI:なし
注:この記事は、有識者個人の意見です。日本医師会または日本医師会COVID-19有識者会議の見解ではないことに留意ください。
  • 血液透析や進行した腎不全は、新型コロナウイルス感染症の重症化リスク要因である。
  • 透析、進行した腎不全患者を診療する場合には、患者、医療者ともに感染予防に一層の注意が必要である。日本透析医会は、「新型コロナウイルス感染症に対する透析施設での対応について(第4報改訂版)」、「透析施設における標準的な透析操作と感染予防に関するガイドライン(五訂版)」を発刊している(http://www.touseki-ikai.or.jp/htm/03_info/doc/20200402_corona_virus_15.pdf)。
  • CKD患者におけるCOVID-19対策は、①標準的な感染予防策の徹底(手洗い、咳エチケット、マスク装着、人混みを避ける等の接触・飛沫感染リスクの低減)、②CKDの本来の治療・療養が疎かになること避ける、ことが重要である。
  • COVID-19にAKIを合併すると、予後が不良となる。十分な水分摂取が必要であり、GFR低下リスクとなる薬剤の不用意な使用(NSAIDs等)に注意する。

はじめに

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染症である COVID-19 は、本邦を含め世界的に拡大しパンデミックの状況を呈している。世界保健機関は公衆衛生上の緊急事態を 2020 年 1 月 30 日に宣言した。高齢者、慢性閉塞性肺疾患、心血管疾患、高血圧、糖尿病等の基礎疾患を有する患者は、重症化しやすい。当初より腎臓病、透析患者は、高齢者が多く、これら合併症の有病率が高いことから、重症化高リスク群と想定されてきた。

腎臓学会では理事長直轄委員会として、新型コロナウイルス(COVID-19)対策小委員会(委員長:南学正臣副理事長)」を設置した。厚労省・政府機関、他学会と緊密に連携してCOVID-19対策に取り組んでいる。

5月1日には「腎臓病診療における新型コロナウイルス感染症対応ガイド」を発出した(https://www.jsn.or.jp/topics/notice/_3718.php)。

またホームページにはCOVID-19関連情報を発信する特設サイトも設置している(https://www.jsn.or.jp/covid19/)。国内外の情報を迅速に収集し、医療現場に届けることを目指している。日々膨大なデータ生成されており、医療現場に混乱を来さないために、可能な限り、堅牢な科学的エビデンスに基づく情報発信に心がけている。

腎臓病は基本的に慢性疾患であり、継続的な治療、食事・運動等の日々の生活管理が重要である。医療現場の混乱による受診困難、外出規制によって、原疾患が重症化することもぜひ避けたい。

透析患者、進行した腎不全患者におけるCOVID-19

血液透析や進行した腎不全は、新型コロナウイルス感染症の重症化リスク要因である

透析患者はCOVID-19によって重症化しやすい。中国武漢の感染者7154名(65施設)の解析結果によると[1]、維持透析患者の2.15%に感染が確認された。これは一般住民の罹患率の4倍であった。感染例の21%は無症状であった。感染例の69%が心血管疾患・高血圧、23%が糖尿病を合併していた。さらに感染透析患者の31.3%(41人/131人)が死亡した。死亡例には心血管疾患によるものも含まれており、COVID-19との因果関係は不明である。

New York市のCOVID-19による入院患者の解析(5700名)では、3.7%が進行した腎不全患者だった[2]【図表1】。米国疾病管理予防センター(CDC)は、高齢者、慢性閉塞性呼吸器疾患、糖尿病、高度肥満、糖尿病、肝疾患、介護施設入居者、加えて維持透析患者を、COVID-19重症化要因に加えている【図表2】。

図表1
COVID-19入院患者の背景疾患
New York市のCOVID-19による入院患者の合併疾患の割合。
文献2より作成
https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/need-extra-precautions/people-at-higher-risk.htm
図表2
COVID-19重症化要因と対応策
米国疾病管理予防センター(CDC)のとりまとめたCOVID-19重症化要因及びその対応策。
CDCのホームページより作成
https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/need-extra-precautions/people-at-higher-risk.htm

中国、米国、欧州からの報告は、いずれもCOVID-19で入院した患者を対象に解析したものである。また、医療崩壊に至った地域も含まれており、医療環境は本邦とは異なる。したがって透析患者がCOVID-19の罹患感受性が高く、重症化リスクであるかについては、厳密な科学的エビデンスはない。しかしながら本邦の透析患者の2/3は65歳以上の高齢者であり、約40%が糖尿病である。透析患者と進行した腎不全では免疫能が低下しており、透析患者の死因の20%が感染症である。貧血、体液量過剰傾向、心不全の有病率も高い。COVID-19重症化リスクを持った患者が多いことは間違いない。加えて定期的に医療機関へ通院する必要があり、透析室において他患者と近接せざるを得ない。

透析や進行した腎不全患者を診療する場合には、患者、医療者ともに、感染予防に一層の注意が必要である[3]。日本透析医会は、「新型コロナウイルス感染症に対する透析施設での対応について(第4報改訂版)」、「透析施設における標準的な透析操作と感染予防に関するガイドライン(五訂版)」を発刊している(http://www.touseki-ikai.or.jp/htm/03_info/doc/20200402_corona_virus_15.pdf)。

患者には、手指衛生、マスク装着を求め、毎日の体温測定と、有熱時の医療施設への事前連絡が必要である。また、心不全は肺炎の重症化リスクとなることから、透析患者では、体重管理、食事管理も重要である[4]。

透析施設内で感染者が発生した場合、透析医療体制に大きな影響を生ずる。透析医療従事者は、感染制御に関する講習、個人防護服の着用トレーニングを受講し、感染予防対策を適切に行う必要がある。透析室内の衛生管理、適切な換気、透析装置、ベッド、電子カルテ等のキーボード・マウス、把手・ドアノブ等の清拭をおこなう。

COVID-19を疑う症状が出現した場合、確定診断を待つ間も、飛沫感染を防御するための個人防護具を使用し、他の患者との距離をとる。可能であれば時間的隔離も行う。

透析患者がPCR検査で陽性となった場合、我が国では入院で管理、治療を行うこととなっている。管轄の保健所に連絡し、感染症指定医療機関など適切な医療機関に入院を求める。

慢性腎臓病患者におけるCOVID-19感染症

慢性腎臓病(Chronic Kidney disease:CKD)は、①蛋白尿/アルブミン尿(腎の構造異常を示唆する所見の存在)、②糸球体濾過量(GFR)60ml/分/1.73㎡未満の状態、あるいは両者の存在が3ヵ月以上持続することで定義される。できるだけ簡便に腎障害を発見し、対処するために生まれた概念である。

CKD患者はCOVID-19に罹患しやすく、またCOVID-19重症化リスクになるのであろうか。

現在のところ、CKD患者がCOVID-19感染に罹患しやすいことを示す明確なエビデンスはない。前述のNew York市の報告では、COVID-19感染による入院患者の中で、CKDは5%であった。高血圧56.6%、糖尿病33.8%、肥満(BMI≧35)、冠動脈疾患11.1%、心不全6.9%より低い。一方、閉塞性肺疾患5.4%とほぼ同数であった。武漢の701名のCOVID-19入院患者の解析では、eGFR<60ml/分/1.73㎡未満が13.1%であり、血尿/タンパク尿を含めて、何らかの腎異常を有する患者の入院死亡リスクが高い[5, 6]。英国の報告では、COVID-19入院患者の生命予後に、腎機能低下が関係する(eGFR<60ml/分/1.73㎡未満でオッズ比2.1)。しかし報告によりCKD定義が一定せず、入院患者を対象とすることからバイアスも多い。

CKDの成因には加齢、高血圧、糖尿病、喫煙などの生活習慣/生活習慣病が関与しており、CKD患者にこれら基礎疾患の有病率は高い。高齢化社会の到来と同時にCKDは増加している。本邦の60歳代では男性の約30%、女性の約45%が推算GFR 60mL/min/1.73m2未満と推測されている。

COVID-19の重症化リスクとして、高齢、基礎疾患(糖尿病、高血圧、心血管疾患など)があげられる。仮に直接的に重症化リスクでないとしても、CKD患者は複数のCOVID-19重症化要因を有しており、感染予防と重症化抑制のための適切な対応が必要である。

CKD患者におけるCOVID-19対策としては、①標準的な感染予防策の徹底(手洗い、咳エチケット、マスク装着、人混みを避ける等の接触・飛沫感染リスクの低減)が重要である。②同時にCOVID-19対策によって、CKDの本来の治療・療養が疎かにならないように留意したい。なおCKD治療においては適切な降圧療法が重要である。レニン・アンジオテンシン系阻害薬を含めて、継続的な治療が重要である。食事療法、適切な運動習慣の継続も必要である。

COVID-19はAKI合併率も高く、予後が不良であることから、AKI予防にも留意する。十分な水分摂取、GFR低下リスクとなる薬剤の不用意な使用(NSAIDs等)にも注意する。

COVID-19と急性腎障害(AKI)

臨床現場では、軽度の腎機能低下に遭遇することはまれではない。軽度腎機能低下が必ずしも全例回復するわけではなく、予後不良(CKDへの移行、死亡等)の場合ある。早期からの適切な介入を実現するために、急性腎障害(AKI)の概念が確立された。sCr 0.3mg/dL以上/48時間以内または1.5倍以上/7日and/or 尿量低下(0.5mL/kg/h以下)で定義される。

COVID-19患者がAKIを合併すると、予後は不良である [5, 7, 8]。COVID-19肺炎患者の中でAKI合併例の死亡率は、非合併例と比較して有意に高い(57.1% vs 3.0%)ことが報告されている。特に腎代替療法を要した患者の救命率は低い。重症COVID-19患者では、AKI発症予防のために適切な管理が必要となる。

腎疾患と肺疾患が双方向性に作用して発症、重症化する病態を肺腎症候群と呼称する。従来からARDS (acute respiratory distress syndrome)にAKIを合併すると予後不良となることが知られていた。

COVID-19にAKIを合併する機序として、換気障害、血行動態変化、サイトカインストームが想定されている。加えて、SARS-CoV-2ウイルスの侵入門戸が細胞表面のアンジオテンシン変換酵素2 (ACE-2)であることが知られており、ACE-2は肺胞上皮細胞、腎尿細管細胞にも発現しており、直接的な感染の影響も想像されているが、確定的ではない[9]。

[引用文献]
  1. Xiong Fei, Tang Hui, Liu Li, et al. Clinical Characteristics of and Medical Interventions for COVID-19 in Hemodialysis Patients in Wuhan, China. Journal of the American Society of Nephrology: ASN.2020030354. 2020
  2. Richardson Safiya, Hirsch Jamie S., Narasimhan Mangala, et al. Presenting Characteristics, Comorbidities, and Outcomes Among 5700 Patients Hospitalized With COVID-19 in the New York City Area. JAMA: 2020
  3. Kliger Alan S., Silberzweig Jeffrey. Mitigating Risk of COVID-19 in Dialysis Facilities. Clinical Journal of the American Society of Nephrology; 15: 707-709. 2020
  4. Li Junhua, Xu Gang. Lessons from the Experience in Wuhan to Reduce Risk of COVID-19 Infection in Patients Undergoing Long-Term Hemodialysis. Clinical Journal of the American Society of Nephrology; 15: 717-719. 2020
  5. Cheng Yichun, Luo Ran, Wang Kun, et al. Kidney disease is associated with in-hospital death of patients with COVID-19. Kidney International; 97: 829-838. 2020
  6. Pei Guangchang, Zhang Zhiguo, Peng Jing, et al. Renal Involvement and Early Prognosis in Patients with COVID-19 Pneumonia. Journal of the American Society of Nephrology: ASN.2020030276. 2020
  7. Hirsch Jamie S., Ng Jia H., Ross Daniel W., et al. Acute kidney injury in patients hospitalized with&#xa0;COVID-19. Kidney International:
  8. Mou Zhixiang, Zhang Xu. The Dangers of Acute Kidney Injury in COVID-19 Patients: A Meta-Analysis of First Reports. medRxiv: 2020.2004.2029.20079038. 2020
  9. Batlle Daniel, Soler Maria Jose, Sparks Matthew A., et al. Acute Kidney Injury in COVID-19: Emerging Evidence of a Distinct Pathophysiology. Journal of the American Society of Nephrology: ASN.2020040419. 2020