大曲 貴夫 | 国立国際医療研究センター国際感染症センター |
忽那 賢志 | 国際感染症センター 国際感染症対策室 医長 |
COI: | 大曲:研究費:サノフィ・パスツールSA(2018年、2019年度) |
コロナウイルスはエンベロープを持つRNAウイルスである。従来感冒を含む急性気道感染症の原因ウィルスとして4種類が報告されていた。
これに加えてSARSコロナウイルス(SARS-CoV)とMERSコロナウイルス(MERS-CoV)が報告された。
COVID-19は、2019年12月に中国の武漢市で初めて患者が報告され、新型のコロナウイルスが病原体であることが確認された。やがてこの感染症はCoronavirus Disease 2019 (COVID-19)と定められた。COVID-19の原因となるコロナウイルスが、SARS CoVとウイルス学的に類似性しているため、SARS CoV-2と呼ばれるようになった。
図表1 |
新型コロナウイルスとは |
2019年12月に中国の武漢市で初めて患者が報告された。当初は武漢海鮮市場から発生したと考えられたが、12月1日以前に発症した患者がおり、この患者は武漢海鮮市場への曝露はなかったため、2019年11月には既に同市内で人-人感染が起こっていた可能性がある。
図表2 |
COVID-19の発見 |
Huang C, et al. Clinical features of patients infected with 2019 novel coronavirus in Wuhan, China. Lancet. 2020 Feb 15;395(10223):497-506. |
日本では2020年1月15日~1月31日の間に、新型コロナウイルスの遺伝子が検出された確定例は12例であった(2020年2月3日現在)。12例中9例は武漢市への渡航歴または滞在歴があったが、3例は中国への渡航歴がなかったことから、同年1月には既に日本国内でのヒト-ヒト感染が起こっていたと考えられる。
日本におけるCOVID-19感染の状況は、2020年1月の中国からの輸入例を中心とした感染にはじまり、次に同年1月中旬-から2月上旬にかけての武漢からの日本政府チャーター便受け入れ時のスクリーニングでの患者の確認、同年2月の横浜に寄港したクルーズ船での患者発生、同年2月以降の海外からの帰国例を中心とした流行の発生と続き、今(2020年4月29日)に至っている。
図表3 |
日本におけるCOVID-19の動向 |
2020年4月7日段階での日本国内でのCOVID-19患者数は、大多数が20歳台~50歳台に集中している。一方で重症例、死亡例は70~80歳台にピークがある。
図表4 |
日本における新型コロナウィルス感染症患者の年齢分布 |
厚生労働省. 新型コロナウイルス感染症について(2020年4月30日閲覧) https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000620718.pdf |
通常の感冒は発症後3~4日目に症状のピークを迎え、その後徐々に症状が軽快していく。
しかしCOVID-19の特徴は、発症後3~4日を過ぎても症状がよくならないことである。一般的な感冒つまり風邪やインフルエンザとは様子が異なり、病悩期間が長い。COVID-19のでは多くの場合微熱や咽頭痛などの軽い風邪の症状が1週間程度続いた後に、徐々に軽快していく。
一部の患者では発症後1週間前後から症状が増悪し咳や高熱が出始め、肺炎を起こす。肺炎を発症しても多くの例は軽症で酸素投与も不要である。しかし一部の肺炎患者は重症となり酸素が必要になる。そしてそのなかでもごく一部の患者が進行性の呼吸不全を来たし、人工呼吸や膜型人工肺による治療必要になる場合がある。
図表5 |
COVID-19症例の臨床像 |
最近問題となったのはCOVID-19患者における味覚・嗅覚異常である。88人のCOVID-19患者のうち問診可能であった59人を調査したところ、33.9%に嗅覚または味覚障害のいずれかがあったとの報告がある[1]。
COVID-19の潜伏期は平均5.2日、感染源の発症から二次感染者の発症まで7.5日間との報告がある[2]。
日本国内におけるCOVID-19の年齢別死亡率は、50~59歳で0.4%、60~69歳で1.5%、70~79歳で5.6%、80歳以上で11.9%である(2020年4月17日段階)。
図表6 |
日本におけるCOVID-19患者の年齢別死亡率 |
厚生労働省. 新型コロナウイルス感染症の国内発生動向(2020年4月17日掲載分)(2020年4月30日閲覧) https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000622727.pdf |
中国からの報告では、基礎疾患として心血管疾患、糖尿病、慢性呼吸器疾患、高血圧、がんのある患者が、持病のない患者と比較して致命率が高かった。
図表7 |
中国におけるCOVID-19患者の基礎疾患と致命率 |
ChinaCDC. Vital surveillances: The epidemiological characteristics of an outbreak of 2019 novel Coronavirus Diseases (COVID-19) — China, 2020(2020年4月30日閲覧). https://cdn.onb.it/2020/03/COVID-19.pdf.pdf |
COVID-19には2020年4月29日の時点で標準治療薬が存在しない。そこで国内既承認薬のリポジショニングによる臨床研究・治験、国内未承認薬の治験、回復者血漿の投与等で標準薬確立のための取り組みが始まっている。
図表8 |
COVID-19の治療薬の探索 |
診療体制整備の例として東京都の例を挙げる。東京都では流行のピークでは中等症-重症の患者4,000人を入院させるための病床の確保が必要と計画している。一方軽症から無症状に近い患者も多く存在するため、これらの患者はホテルなどによる宿泊療養や自宅療養で対応している。
図表9 |
東京都におけるCOVID-19医療体制の整備 |
東京都(2020年4月30日閲覧). https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/007/556/2020033005.pdf |
本疾患の特徴として、感染症の集団発生(クラスター)が起こることにより、階段状に累積患者数が積みあがっていく事である。図に示したのは、2020年3月9日段階で報告されている、国内での主なクラスターの発生状況である。
図表10 |
日本におけるCOVID-19の集団発生(クラスター)形成 |
厚生労働省. 新型コロナウイルス感染症について(2020年4月30日閲覧) https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000606691.pdf |
クラスターの分析により、①換気の悪い密閉空間、②多数が集まる密集場所、③間近で会話や発声をする密接場面、の3要素が揃う場が、COVID-19罹患リスクが高いことが分かっている。これを踏まえて厚生労働省ではこの三つの要素が揃う場を避けるよう、国民に啓発している。
今後のCOVID-19流行の長期的展開については、過去の新型インフルエンザの流行時の状況などを参考に、感染の波が数回は繰り返されると予想されている。これを押さえ込むために、一定の規模の流行が起こったら移動の制限などの強力な政策を使って押さえ込み、安定している時期にはやや緩和した対策を継続することによって大規模な流行が起こらないように押さえ込んでいくことが考えられている。