公益社団法人 全国自治体病院協議会 COVID-19流行時における自治体病院のあり方タスクフォース |
全世界で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が蔓延し、我国でも経済的活動の再開と共に、第2波と言うべき流行が再発している。先の第1波では、我々自治体病院は多くの困難と混乱を経験しながら、COVID-19という未知の新興感染症の治療に必死に取り組んできた。全国自治体病院協議会(全自病)では、「新型コロナウイルス感染症と自治体病院」と題して4月までの状況を本有識者会議に第1報として報告した[1]。今回はCOVID-19流行時における自治体病院のあり方タスクフォースを立ち上げ、会員病院へ再度アンケート調査を施行し、第1波5月終了時までの医療現場での経験をまとめ、得られた課題、教訓を通して今後のwith Corona時代の対応策、流行時の自治体病院のあり方を検討したので報告する。全国に展開する自治体病院の果たすべき役割は、地域々々によって、また個々の病院が有する機能によって異なるが、住民の生命と健康を守り、地域の健全な発展に貢献するという根幹は変わることなく、この報告がより一層円滑なCOVID-19対応、地域医療の継続・発展に繋がることを期待している。
本稿は2つのテーマから構成される。第1は第1波に際して自治体病院が行った対応と課題について、第2はCOVID-19流行時における自治体病院の今後のあり方に関する会員病院からの意見をまとめたものである。国、都道府県、市町村はじめ、関係各位との支援・連携体制や、医療体制のあり方、問題点等にも触れることになるが、より良い医療提供体制の構築を目指したものであることを予めお断りして、ご理解いただきたい。
867会員病院に対し、5月31日時点までのCOVID-19への対応状況、課題、今後のあり方についての意向を調査した。回答は471病院、54.3%から得られた【図表1】。
図表1 |
調査結果の概要 |
COVID-19陽性外来患者がみられた病院は198病院、42.0%で、患者数は総計で2,577名であった。500床以上の病院に1,049名と最も多くの患者がみられたが、100床台から400床台の病院にも300名を超える多数の患者が受診していた。これらの病院では、発熱外来・救急外来のマニュアルやフローチャートが91.3%で作成され、動線・ゾーニングの確保が89.6%、シミュレーションの実施が74.9%で行われていた。
COVID-19入院患者を受け入れるために病棟閉鎖・削減を実施した病院は、465病院中41.3%であった。500床以上の病院が最も多かったが、100床台の病院でも27.5%が対応していた【図表2】。
図表2 |
COVID-19入院患者受入のための病棟閉鎖・削減の実施状況 |
COVID-19が疑われる救急患者、あるいは一般救急患者に対して、受け入れが困難であったケースは91病院で見られ、前者では病床満床のため、病床未整備のため、COVID-19による院内感染の危惧、自院での対応困難症状ありが理由として挙げられた。病床満床のためは500床以上の病院が最も高く、病床規模が小さくなるほどその他の理由での受け入れ困難事例が増加する傾向を示した。一方、一般救急患者の受け入れが困難となった原因は、COVID-19対応で一般患者の受け入れを制限していたが31.9%にみられた。両者に共通した項目では、医師・看護師不足、PPE不足、COVID-19疑い症例の多発で対応困難、院内感染が起こり患者受け入れ停止中等の理由が報告された【図表3】。
図表3 |
COVID-19疑い救急患者または一般救急患者の受け入れ困難事例 |
COVID-19入院患者は、219病院、46.5%で2,859名の患者を受入れた。未受け入れ病院は249病院であった。2,859名を経過中陥った最も重い病期と死亡者とに分けて分類すると、軽症:1,497名、中等症Ⅰ:543名、中等症Ⅱ:497名、重症L:102名、重症H:95名、死亡:125名、4.4%であった。軽症者の比率は99床以下、100床台の病院で高かったが、300床台~500床以上の中~大規模病院にも多数収容されており、500床以上の病院では全入院患者の50.3%、全軽症患者の45.5%が入院していた。中等症、重症者、死亡例は500床以上の病院での受け入れ数が最も多かったが、200床台~400床台でも全入院患者に占める比率は500床以上の病院とほぼ変わらず、100床台以下の病院でも中等症患者が少数ながら収容されていた【図表4、5】。
図表4 |
COVID-19入院患者の受入状況 |
図表5 |
COVID-19陽性入院患者① |
COVID-19入院患者の収容病床は、確保した一般病床が軽症~中等症を中心に49.8%と最も高く、次いで感染症病床、結核病床、ICU、HCUの順となっている。重症例、死亡例はICUで治療した比率が高いが、確保した一般病床での治療も行われていた【図表6】。
図表6 |
COVID-19陽性入院患者② |
COVID-19陽性患者の入院受け入れなしの理由は、回答病院237病院中、地域にCOVID-19陽性患者が発生していない46.4%、自院に受け入れ可能な人材、設備、機能がない45.6%、COVID-19陽性患者は他医療機関が受け入れており、自院は一般医療を提供43.0%、受け入れ体制を取っているが要請なし、医療が逼迫しておらず未だ体制整備を整えていないなどのその他の理由が15.2%であった。
COVID-19陽性患者を重症度別に受け入れているか否かの質問に対しては197病院から回答があり、主に軽症・中等症患者を受け入れた病院65.5%と最も比率が高く、軽症~重症まで全てを受け入れた病院27.9%、中等症~重症患者を主に受け入れた病院6.6%であった。主に軽症・中等症患者を受け入れた病院で重症患者を受入れなかった理由は、重症患者なし86.0%、重症患者の連携・移送体制あり46.5%であったが、連携・移送体制に課題を有した病院も散見された【図表7】。主に中等症~重症患者を受け入れた病院は、軽症患者の対応は他の医療機関76.9%、宿泊施設46.2%、自宅38.5%であったが、宿泊施設の利用はピークを過ぎた後だったり、食事介助やリハビリが必要な患者の支援病院の確保に苦労し、転院できないことがあったなどの課題が示された。軽症~重症まで全てを受け入れた病院は、自治体や行政からの要請52.7%、地域に宿泊施設や代替医療機関がないため50.9%、患者の急変時対応のため32.7%であった。軽症者で満床になってしまう、自治体からの要請で全てを指定医療機関に入院する決まりがあり、宿泊施設、受け入れ病院の確保が不十分、介護度の高い高齢者は治療以外に介護に人手が必要で難しいなどの課題が示された【図表8】。
図表7 |
主に軽症・中等症患者を受け入れた病院のうち、重症患者を受け入れていない理由 |
図表8 |
軽症・中等症・重症患者の全てを受け入れた病院のうち、軽症患者を自院で引き受けた理由 |
人工呼吸器、ECMOを必要とした中等症、重症患者では、自院で治療40.6%、他の医療機関へ移送69.6%であった(重複あり)【図表9】。
図表9 |
人工呼吸器、ECMOを必要とした中等症、重症患者への対応状況 |
COVID-19患者の後遺症は214名にみられた。長期入院による筋力、運動能力の低下54.7%、呼吸機能低下16.8%、嗅覚障害12.1%、認知機能低下8.9%と続いた。回復後の退院に際して、COVID-19陽性だったことを理由に転院を断られる45.2%、陰性確認後も時間をおいての(14日以上等)転院引き受け47.6%、介護度が上がり家族が退院を受けない34.7%などの問題が挙がった。死亡時の対応でも、葬儀関係の問題(納体袋、遺体管理、火葬場への搬送、時間外火葬の実施、剖検等)、通常の看取りが出来ないなどの課題が多数報告された。
COVID-19疑い患者、妊婦、小児、精神疾患の患者の対応に課題を生じた病院が、それぞれ76.3%、40.0%、47.3%、44.3%にみられた。COVID-19疑い患者への対応では、患者が集中するなか、陰性、あるいは陽性確定まで個室隔離を必要とし、看護師はPPEを着用して他患と分けて対応する必要があり、妊婦対応では、多くの病院が妊婦対応困難ななかで、分娩室の分離、感染症病棟での分娩、緊急入院に伴う帝王切開、出産後の母子対応などの課題が示された。小児対応では、小児科医の不足、看護師が小児対応に不慣れ、付き添い者への対応などが課題として挙がり、精神疾患患者に対しては、理解・制止できない、濃厚介助の必要な患者のため暴露のリスクが増大する懸念と共に、施設整備の不備や(隔離困難、酸素設備なし等)、精神、あるいは感染症・身体合併症領域の専門医・看護師不足、治療体制の脆弱性が指摘された【図表10】。
図表10 |
COVID-19疑い患者やCOVID-19陽性の妊婦・小児患者・精神疾患の患者の対応に課題があると回答した病院※ |
介護施設等からの患者は回答408病院中30.4%で受け入れがあり、99床以下、100床台、200床台、300床台、400床台、500床以上の病院では、18.9%、20.9%、29.5%、48.1%、43.9%、44.4%が受け入れていた。
PPEの使用法や感染に対する教育、トレーニングは93.8%の病院で実施されていたが、院内感染が27病院、5.8%で発生し、23病院がCOVID-19陽性患者の治療中に発生していた。感染者数は103名で、看護師、患者、医師の順であった。感染経路としては患者治療に起因するもの44.4%、同定不能40.7%、職員の院外からの持ち込み29.6%、不顕性感染者からの感染7.4%と報告され、PPE不足、感染症への知識・技能不足、その他(吐物処理、口腔ケア、PCR偽陰性等)の原因が報告された【図表11】。
図表11 |
院内感染の経路と原因 |
感染症対策チームは86.9%の病院で設置され、99床以下の病院50.0%、精神科病院76.0%を除きほぼ100%であった。トレーニングも89.3%の病院で実施されていた。呼吸ケアチームは461病院中26.2%、ECMOチームは457病院中4.2%に設置されていた。
院内におけるCOVID-19対策会議は460病院中89.8%で開設され、100床台以下、精神科病院を除くとほぼ100%であった。COVID-19陽性患者への対応に関する振り返り、課題・対応策の検討が73.8%で実施され、診療体制・人員配置、対応マニュアルの策定や見直し、地域の感染状況や対応方針、第2波以降への備え、職員の経験発表、記録の整備など、頻繁に協議された。
COVID-19に関する問い合わせ窓口は44.1%の病院で設置され、電話、一部PCによる診療・処方箋発行などが83.4%の病院で実施された。
職員の宿泊施設の確保は309回答病院中75.1%で行われ、自治体、自院での確保、職員が自ら確保(重複あり)が、18.8%、50.2%、19.1%であった。職員のメンタルケアは461病院中44.3%で実施され、精神科リエゾンチーム、上司、心理士等のカウンセリングが行われた。危険手当は、457病院中64.6%で創設または増額され、時間外手当は96.1%で増額なしのままであった。保育施設に関しては462病院中58.7%に施設が設置されており、特別臨時対応(一時保育41.3%、学童保育30.4%、保育士の増員8.7%など)が行われた。
自治体・保健所・医師会等との協議・連携体制については、回答病院450病院中93.6%で協議が行われ、中心的役割を果たしたのは、保健所80.8%、自治体52.7%、医師会35.6%、感染症指定医療機関29.7%であった。情報伝達・指揮命令系統が機能したところは82.0%に止まり、協議・連携なしが6.4%でみられた。情報共有の徹底、患者の重症度に応じて受け入れ医療機関を調整する体制の強化、患者集中の是正、宿泊施設の早期からの確保、早めの準備、開業医や民間病院との機能分化が課題として挙げられた【図表12】。公立・公的病院間、大学との相互支援は449病院中50.3%で実施され、精神科単科病院と総合病院との連携は、23病院中65.2%で行われた。
図表12 |
情報伝達や指揮命令系統の機能状況 |
医師(後期研修医含む)、看護師等の感染症病院への派遣は440病院中9.5%で実施され、500床以上の病院が19.4%、200床台が13.0%であったが、他は5~7%であった。人員の余裕がない、人員の広域配置が可能となる体制作りが課題との指摘があった。
G-MISに関しては、5月31日時点で451病院中72.9%が認知しており、57.5%が活用、役に立った28.5%、どちらともいえない64.5%、役に立たなかった7.0%であった。医療材料の配給を受け、助かったという回答がみられる一方、入力の効率化と省力化を求める意見が多数あった。HER-SYSの認知状況は389病院中59.6%であった。
医業収支は未受け入れ病院、受け入れ病院、病棟閉鎖・削減した病院の順に悪化しており、4月よりも5月の方がマイナス幅が大きくなっていた[2]。500床以上の病院では、COVID-19対応のため平均で58.1床、61.9日間病床を確保し、入院での概算減収額は23,913万円、外来では1日当たり180人の診療制限を46.5日実施し、概算減収額は平均で15,998万円であった【図表13】。医療体制整備のために施設改修、工事が発生した病院は355病院中44.5%で、医療機器・物品購入等による費用増加が83.1%、医薬品・医療材料の価格高騰による費用増加が60.3%、人件費の増加が22.8%にみられた。
図表13 |
COVID-19対策によって生じた概算減収額(入院) |
COVID-19陽性患者の受け入れのための空床確保に必要となる金額は、1日当たりICU29.2~34.9万円、HCU17.0~19.4万円、一般病床5.7~6.1万円、その他病床5.2~10.4万円と報告され、第2次補正額に対して、重点医療機関ではICU、その他病床で不足し、協力医療機関ではその他病床で不足していた。一般医療機関では全ての病床で補助額が不足しており、増額を望む声が聞かれた【図表14】。
図表14 |
COVID-19陽性患者の受け入れのための空床確保に必要とする金額 |
COVID-19陽性患者(中等症・重症)に係る特例的な診療報酬に対しては、重症度制限のために診療報酬の対象にならないが323病院中35.0%、充足するが5.3%、充足しないが病院34.7%であった。COVID-19対応で、一般患者が減少した点も考慮して欲しいとの意見が多数あった【図表15】。
図表15 |
COVID-19陽性患者(中等症・重症)に係る特例的な診療報酬に対する評価 |
COVID-19に伴う医療機関への支援が実施されているが、更に必要な支援対策について自由記載欄では、①疑似症患者、軽症患者の受け入れに対する支援の充実、②次年度施設基準の緩和や診療報酬上の措置、③精神科診療報酬の圧倒的な低さの是正と人員確保、連携体制の確立、④日本医師会との連携により、かかりつけ医による1次トリアージ機能強化、⑤地域の医療機関の機能分化、⑥PCR、LAMP法、迅速診断キット等の早急配布、⑦医師・看護師等の増員、適正配置、応援体制の確立、⑧陽性患者非受け入れ病院も含めたPPE等の潤沢な供給と、医療物資の安定流通体制の確立、⑨電子カルテによる情報共有などの支援、⑩重点機関、周産期、小児、透析、精神患者の病床確保・体制整備、⑪院内感染対策等が挙げられた。
COVID-19流行時の自院の役割は、行政、地域の関係者と情報共有・協議して対応すると回答した病院が91.5%と最も多く、重症度によって受け入れを分担66.1%、陽性患者は重症度に関係なく原則引き受ける5.4%であった【図表16】。
重症度によって受け入れを分担することに対しては、中等症・重症者は重点医療機関、中~大規模病院を中心とする72.1%、無症状・軽症者は施設、小規模病院を中心とする56.8%、基礎疾患を有する高齢者は小~中規模病院を中心とする25.9%、介護施設等からの高齢者は小~中規模病院を中心とする21.8%であった【図表17】。
図表16 |
COVID-19流行時の自院の対応 |
図表17 |
COVID-19流行時に重症度によって受け入れを分担することに対する自院の考え |
自由記載欄の主な意見では、
COVID-19流行時、重点医療機関・専門病院と一般医療を分離することになった場合、対応は可能かについては、地域毎の状況で差異が考えられることから、A:東京23区、政令指定都市、中核市 B:A、C以外、C:不採算地区、医療資源の少ない地域、過疎地に分けて調査した。Aでは91病院中29.7%が対応可能と答え、500床以上の病院では51.4%、100床台でも33.3%が可能という結果であった。B地区では対応可能が28.4%、300床台で42.9%と最も高く、500床台38.1%、200床台33.3%であった。C地区では21.2%が対応可能と答え、500床台以上60.0%、400床台54.5%、200床台47.4%であった【図表18】。
図表18 |
COVID-19流行時、重点医療機関・専門病院と一般医療に対応する病院を分離するとなった場合、重点医療機関・専門病院としての対応可否 |
自由記載欄には、
流行時に必要と考える医師は、病床規模によっても異なるが、感染症専門医は現状の1.0~1.8倍、救急科専門医は1.0~2.2倍、麻酔科医は1.0~1.2倍と報告された【図表19】。感染管理認定看護師は1.0~2.0倍、救急看護認定看護師は1.0~2.0倍、臨床検査技師は1.0~1.14倍、臨床工学技士は1.0~1.25倍であった。
図表19 |
今後、流行時に必要と考える医師の人数 |
流行時に1病院で1か月に必要とされる医療材料の量は、一般病院でサージカルマスクが3,450~39,672枚、N95マスクが555~3,012枚、防護服が70~1,580着、ガウンが910~9,185着、フェイスシールドが530~4,893枚、消毒液が26~537Lであった。精神科病院では、順に400~5,888枚、225~864枚、45~966着、400~1,477着、400~1,217枚、27~45Lであった【図表20】。
図表20 |
COVID-19流行時の医療材料等の必要量(1病院当たり1か月分の備蓄量) |
医療機器では、人工呼吸器が1.13~1.25倍、ECMOが1.21~3.17倍、生体情報モニターが1.06~1.10倍、輸液ポンプが1.03~1.10倍、シリンジポンプが1.03~1.19倍、血液浄化装置が1.02~1.09倍、陰圧機能付きテントが1.94~7.00倍であった。
COVID-19に対応するための医療施設として、感染症患者専用エリア・専用動線の整備・確保が395病院中71.6%で必要とされ、PPEの備蓄スペースの確保が47.8%、野外スペース・施設の確保40.8%、ICUの拡張・整備19.7%、感染症病室の整備18.0%、予備病床整備17.7%であった【図表21】。
図表21 |
COVID-19に対応するための医療施設の整備状況 |
COVID-19に対応するために連携が必要と考える機関は、保健所が91.2%で最も高く、他医療機関75.3%、都道府県52.4%、市町村26.3%であった【図表22】。
図表22 |
COVID-19に対応するために連携が必要と考える機関等 |
COVID-19国内パンデミック第1波においては、病院数で我国の約11%、病床数で約14%を占める自治体病院が、医学的知識、経験に欠け、PPEの不足、医療提供体制が未整備の過酷な状況の中、COVID-19の治療に懸命に当たった。自治体病院は、特定感染症指定医療機関4病院中2病院、第1種感染症指定医療機関55病院中32病院、第2種感染症指定医療機関537病院中266病院を占め、感染症流行発生時の中心的役割を果たすことが求められており、他にも救急、周産期、小児、精神科、高度専門的医療の、いわゆる不採算医療や政策的医療の実施が役割とされている。我が国では医療の効率的運営、経済的問題から、通常の(平時の)医療提供体制において、自治体病院の赤字体質、非効率的体質が問われ、再編・統合・廃止などの論議が長年進められてきた。自治体病院側からは、有事(非常時)に備えた病床機能、政策的医療の確保が不可欠と答えてきたが、今回のCOVID-19パンデミックを経験することによって、有事の際の医療のあり方を真摯に検討する必要性が強く認識されたと思われる。従来の5疾病5事業に加え、新型感染症対策を加えた再検討が必要と既に提案されており、昨年9月の地域医療構想WGで、自院のあり方の再検証を要請された424の自治体病院・公的病院等のうち、少なくとも72病院がCOVID-19患者の入院治療に当たったと厚労省から報告されたが、まさに再検証の再検証が必要だと考えさせられる状況だと思っている。
我が国ではSARSやMERSの発生に遭遇せず、1918年のスペイン風邪以来とも言うべき重篤な新興感染症のパンデミックに襲われたために、感染症指定医療機関を含めた多くの医療機関、更には国、都道府県自体が、準備不足、対策不足の状態から始まり、多くの混乱と苦悩に見舞われる結果となった。全自病ではこうした反省のもと、国内COVID-19パンデミック第1波の状況を分析し、課題をまとめて今後への対応を進めるために、会員病院への実態調査を実施した。更に、今後のパンデミックの発生に備え、自治体病院のあり方を検討した。
本アンケート結果からは、多くの課題が見いだされた。
いずれも容易には解決しない問題を含んでいるが、COVID-19を克服するには乗り越えなければならないことばかりであり、国、都道府県、市町村等との連携・協議を密に、確実に取り組んでいかなければならないと考えている。
COVID-19流行時の自治体病院のあり方について、会員病院からの様々な意見を要約すると、
ということに、大略方向付けられるように思われる。
現在COVID-19に対する治療方針として、国は国内での予測患者数とそれに対する必要病床数を推計し、それぞれの都道府県が中心となって圏域内で確保するよう指示しており、感染の蔓延状況や時間軸を考慮し、フェーズに応じた即応病床、医療体制の確保を提唱している[3]。その際当然ではあるが、COVID-19患者に対する医療と、他の疾患患者に対して必要な医療を両立して提供することを必須としている。大阪などでは対応策の一環として、COVID-19専門病院を設置する方針で進められているが、今回の我々の調査結果では、自治体病院には圏域内で自院が継続して果たさなければならない機能、役割があり、専門病院化することが難しいケースが存在することが報告され、そういう圏域、病院では病床を削減、転換のうえ、重点医療機関、協力医療機関としてCOVID-19の診療と一般診療を院内で明確に分離して臨む考え方が示された。一方、自治体病院が専門病院として対応を要請される場合も想定される。大阪などのように住民・行政の強い意向があり、圏域内の医療体制のあり方に関する協議に基づき、自治体病院の専門病院化が要請される場合もあるであろうし、超大型の流行に襲われ、大量の感染者が一時に発生して困窮・パニック化する際などは、自治体病院が今以上に、患者を可能な限り大量に引き受けなければならない事態も発生しうると推測される。今後のCOVID-19流行の起き方によってこうした対応の仕方も変わると思われるが、自治体病院としては全力を挙げて取り組む基本的姿勢に変わりなく、できるだけ大流行が起きることなく、国の方針である圏域内の重点医療機関、協力医療機関のフェーズ毎の対応で乗り切れることを願っている。COVID-19のような新興・重大感染症への対応は、自治体病院が果たすべき責務の一つであり、様々な規模・機能からなる自治体病院ではあるが、それぞれが自院の役割に応じ病院機能の見直し、改善に努めるとともに、行政、他医療機関と連携し、地域全体での感染対応能力を向上させていく不断の努力が必要と考える。
今回の調査によって、自治体病院は圏域ごと、病院毎の医療体制や、患者発生の状況、フェーズ等によって、最も効果的で適切な形で、関係各位との協議に基づき、自治体病院としての役割を果たす意向であることが確認された。自治体病院としての使命のもとに、COVID-19パンデミック治療に積極的に対応する決意が示され、特に中等症患者や重症患者に加え、重症化し易く、後遺障害が多発する高齢者・要介護患者を早期から収容して治療に当たるべきという方針と共に、精神科や産科、小児科、疑似症患者等の課題が多い症例に、主体的に対応すべきことが提唱された。しかし、圏域ごとに様々な課題があり、自治体病院としてそれぞれがon goingで解決を図らなければならない問題や、我々医療者だけで解決し得ない課題も多い。院内環境・体制の整備や、人員配置・教育・トレーニング等を行いながら、国、都道府県、市町村、保健所、他の医療関係者との協議、改善策の検討を迅速に進める必要が痛感される。COVID-19治療に当たる病院への負担・課題は大きく、今回の調査で指摘された地域内の情報連絡・指揮命令系統の整備や、医療機関・介護施設との機能分担・連携体制の確立、宿泊施設の確保や、PPE等のサプライチェーン、PCR等の検査体制の問題、職員の負担軽減問題等、様々な改善、支援体制の推進が不可欠と言わざるを得ない。全てが未知の状況から始まり混乱した第1波に比べ、医療面では着実に前進している現状にはあるが、なお一層の解決を図っていかなければならない。
全自病ではこうした課題に取り組み、少しでも解決・改善に向かうよう検討を進める所存であるが、関係各位のご教示、ご指導をこの場を借りてお願いしたい。また、会員病院各位に対しては、今までの対応に深く感謝を申し上げ、今後の更なる活躍を期待したい。