日本医師会 COVID-19有識者会議
2.検査, 予防・疫学
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NCGM発熱相談外来と新宿区PCR検査スポット:定点観測からみた感染拡大

國土 典宏NCGM国立国際医療研究センター理事長
徳原 真NCGM理事長特任補佐
大曲 貴夫NCGM国際感染症センター長
杉山 温人NCGMセンター病院院長
COI:なし
注:この記事は、有識者個人の意見です。日本医師会または日本医師会COVID-19有識者会議の見解ではないことに留意ください。
  • NCGM国立国際医療研究センターはCovid-19のPCR検査のために、2020年3月9日~4月26日に発熱相談外来を開設し、通算2,134名の検査を行い23.1%の陽性率であった。
  • 4月27日からは、新宿区の委託事業として「新宿区新型コロナ検査スポット」に移行した。新宿区医師会と区内9主要病院の協力を得て、行政検査としてのPCR検査を7月14日までの通算で3,744件行い、769名の陽性者を診断した。
  • 受診者数のグラフは東京都が発表する感染者数の推移のグラフと形が似ている。陽性率は、東京全体の6%に比べると30%以上と高い。感染者が集積していると思われる新宿区の状況を、リアルタイムで反映している可能性がある。
  • 本検査スポットの数字は、新宿区の定点観測として意義があり、今後も重要な指標になると思われる。

NCGM国立国際医療研究センターは、2020年1月29日から始まった武漢チャーター便通算5回793名の帰国者PCR検査を担当し、感染者の治療も行ってきた。2月にはクルーズ船ダイアモンド・プリンセス号クラスター発生時に職員を船内へ派遣するとともに、重症者を含むCovid-19感染乗客の治療を担当した。都内の感染拡大に対応するために、3月9日より発熱相談外来を開設し、医療機関からの紹介患者、あるいは新宿区内在住の患者のPCR検査を行う体制を整えた。4月に入ると受診者は1日100名を越え、陽性率も40%を上回るようになり、PCR検査だけでなく、通常の診察と必要な検査を追加して処方まで行う外来診療では、対応が難しくなった。また、発熱相談外来を担当する感染症科スタッフの業務が増大し、重症患者を含む入院患者の治療に支障をきたすことも危惧される状況となった【図表1】。

図表1
NCGM発熱相談外来受診者数の推移(2020.3.9-4.26)

そこで理事長、病院長をはじめとするセンター幹部の協議の中で、新宿区、新宿区医師会、新宿区内の基幹病院が連携して、PCR検査から入院診療までのCOVID-19に対する医療体制を提供することが提唱された。新宿区医師会の平澤会長、新宿区内の基幹7病院の院長(慶應義塾大学病院北川院長、東京医科大学病院三木院長、東京女子医科大学病院田邉院長、JCHO東京新宿メディカルセンター関根院長、JCHO東京山手メディカルセンター矢野院長、大久保病院辻井院長、聖母病院中澤院長)からの賛同を得ることができ、4月11日に新宿区の吉住区長と面会し、COVID-19医療提供体制「新宿モデル」を提案した。

「新宿モデル」は、PCR検査スポットを設置と入院患者のベットコントロール支援が2本の柱となっている。行政検査としてのPCR検査を専用に行う場所を作ることにより、診療所やクリニックを受診した患者が必要なPCR検査を円滑に受けられるる。また、基幹病院が連携し保健所からの要請に対して、入院ベット確保を支援する体制となる。吉住区長の英断により「新宿モデル」が承認され、4月27日にスタートした【図表2】。

図表2
「新宿モデル」の概要

PCR検査スポットは、「新宿区新型コロナ検査スポット」として、新宿区からNCGMへの委託事業として、NCGM敷地内にテントを設置して行うことになった。今までに例のない取り組みであるため、様々な問題に直面したが、新宿区医師会、区内主要病院とNCGM内各部門との協力により、10日程度の準備期間を経て運用を開始することができた。この検査スポットの立ち上げには、武漢オペレーション、ダイヤモンドプリンセス、発熱相談外来における私共NCGMの経験が大変役だった。新宿区内の基幹7病院より医師、看護師、臨床検査技師、事務が、新宿区医師会からは医師が交代で派遣され、“オール新宿”で運営をする体制となった。平日の9:00〜11:00の2時間で最大1日200名のPCR検査を想定して準備した【図表3】。

図表3
新宿区PCRスポット加藤厚労大臣視察

PCR検査スポット運用開始直後ゴールデンウィークの頃は、一日50~85名の受診があり、陽性率は5%程度であった。しかし緊急事態宣言の効果によって感染が終息傾向となったためか、5月下旬には受診者が20人以下となり、陽性者もゼロ~3名まで低下した。5月25日の緊急事態宣言解除後は、受診者数がわずかに増加する程度であったが、6月中旬、歌舞伎町のホストクラブでの集団感染が明らかとなった頃から、主に夜の町関係と思われる若い受診者が増加した。7月に入ると受診者は一日100名を超えるようになり、陽性率も30%台を推移するようになった。7月13日には、これまで最高の247名が受診し79名(32.0%)が陽性であった。最近では40歳台以上の年配者の受診も目立つようになった。PCR検査の手順については、スタッフが慣れてきているので、200名を超えてもなんとか午前中に検査を終了しているが、対応能力はほぼ限界に近づいている。7月14日までの通算で3,744件行い、769名の陽性者を診断した【図表4】。

【図表4】のPCR検査スポット受診者数のグラフは、東京都が発表する感染者数の推移のグラフと形が類似する。陽性率は東京全体の6%に比べると30%以上と高く、感染者が集積していると思われる新宿区の状況を、リアルタイムに反映している可能性がある。4月27日~7月14日までに通算5,878名のPCR検査を実施しており、おそらく日本で最も多数の検査を実施したPCR検査スポット(発熱相談外来分を含む)と思われる。本検査スポットの数字は、新宿区の定点観測として意義があり、今後も重要な指標になると思われる。仮設テントの検査スポットでは、真夏の暑さや秋の台風などに対応できないため、8月以降は新宿区内の常設建物に移設されて、業務が引き継がれる見込みである。

図表4
新宿区PCRスポット受診者数の推移(2020.4.27-7.15)

稿を終えるにあたり、新宿モデルに協力いただいた新宿区、保健所、新宿区医師会、区内主要病院の皆様に深謝します。