日本医師会 COVID-19有識者会議
2.検査
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COVID-19感染制御のためのPCR検査等の拡大に関する緊急提言

日本医師会COVID-19有識者会議
注:本提言はCOVID-19有識者会議の提言であり、日本医師会の見解ではないことに留意ください。

(令和2年8月5日)

緊急事態宣言によって一旦減少したCOVID-19患者数が、社会経済活動の再開に伴い、急速に増加している。重症患者も徐々に増え、医療提供体制の窮迫・崩壊が懸念される。これまでわが国は、有症状者の探知により把握された濃厚接触者を追跡し感染拡大を防止してきた。この積極的疫学調査によるクラスター対策手法は、流行初期には有効であっても、市中感染が広がり感染経路不明の患者が増加した段階では、後手に回り流行を抑止することは困難である。この状況に鑑み、本有識者会議は「COVID-19感染対策におけるPCR検査実態調査と利用タスクフォース」を設置し、多角的に検討を重ねてきた。当タスクフォースからはこれまでに、中間報告書及び中間報告書解説版が公表されている。

現在、PCR検査は、COVID-19疑い例とクラスター対策のための行政検査以外に、医療上の必要性があれば、検査協力医療機関および地域外来・検査センターで受けることができる。しかし検査協力医療機関の指定を受けるための要件・手続きは煩雑であり、また指定を受けたとしても、検査体制の維持は容易でない。経営的にもマイナスの影響を受けることになる。

さらに本感染症は無症状例が多く、隠れた地域内流行が存在する。このため、感染症対策だけでなく、経済を回す上からも、感染管理の必要な人たちが検査を受ける必要がある。しかしこれらの人々に対する検査の枠組みは用意されておらず、PCR検査等を受けることは難しい。実際、我が国のこれまでのPCR総計実施件数は、米国の約150分の1、英国の約10分の1である。検査を拡大できない理由は、我が国で一日に実施可能なPCR検査数が約35,000件であり、米国、英国、韓国の30分の1から40分の1という低い状態にあるためといわれる。

そこで本有識者会議は、タスクフォースの調査結果等に基づき、以下の方策を提案する。

  • 1)早急に高機能検査機器を導入し、PCRおよび抗原検査の実施能力を大幅に拡充する。
  • 2)有症状者に対する行政検査における対象者を拡大し、PCR検査や抗原検査へのアクセスを大幅に改善する。あわせて検査の質を担保する。とくに、
    • ①発熱や感冒症状を訴える患者から電話等で相談を受けた医師が、COVID-19に関する検査を必要と判断した場合、診察前に患者にCOVID-19関連検査を受けられるよう、地域外来・検査センターの設置数と機能を拡充する。また、そのために必要な財政支援と制度の整備を行う。
    • ②感染防御と検査実施を含めた患者診療に対する財政支援を強化する。
    • ③検査協力医療機関の申し出手続き、さらに市中一般医療機関にあっては、①の疑い患者の紹介・連絡先方法の手続きを簡潔にする。
  • 3) 社会経済活動と感染制御の両立のためには、市中における無症状陽性者の早期発見が重要である。そのために社会経済活動上、検査を必要とする市民が、有病率に拠らず容易に検査を受けられる公的な体制を確立する。具体的には、時限の法令の整備等により、地域医療の資源、検査協力医療機関、帰国者・接触者外来、地域外来・検査センター、民間の検査機関などが連携して、「コロナ検診」ともいうべき多様な検査体制を整備する。検査の対象は、感染リスクを有し、社会経済活動の維持と感染拡大の抑止のために検査が必要な人々で、保健所あるいは医師が判断する。対象の判断基準は、各都道府県の検査体制と医療体制を考慮して自治体が決定する。陽性者は再検査を受け、そのうえで陽性であれば、医療機関や保健所と相談して、行政検査を受ける。なお検査価格は高額にならないように設定し、検査料の一部は公費負担とし、自己負担の割合は検査を受ける人の経済的な状況に十分に配慮する。
  • 4)検査で陽性と判明した場合は、行政の指導に従う。また「罹っても『うつさない』という責任ある行動」を促し、接触確認アプリ(COCOA)利用の協力を求める。
  • 5)有病率の低い集団に検査を拡大することで懸念される偽陽性に対しては、再検査や別の検査を組み合わせることで、結果の確認に努める。同時に、検査精度のモニタリングと是正のためのシステムの構築を行う。さらにPCRおよび高感度抗原検査の迅速化および効率化、検査件数の増加、検査結果を取りまとめる情報システムを整備する。各種抗原検査の感度と特異度については、国が調査して公表することも重要である。
  • 6)感染症危機管理に対応するためには、国際情報に基づく対応、国が管理するPCRおよび抗原検査センターの整備が必要である。そのための情報基盤と国内医療産業基盤を早急に整備する。

以上

参考資料