中谷 比呂樹 | 慶応義塾大学 特任教授WHO執行理事 |
COI: | なし |
(2020年5月18日寄稿)
安倍総理は14日、39県における緊急事態宣言の解除を発表する一方、特定警戒都道府県のうち、東京と神奈川、千葉、埼玉、大阪、京都、兵庫、北海道は引き続き緊急事態宣言の対象地域とした。これらの地域では、外出自粛などの措置の緩急に関する「出口」とともに「入口」の基準が求められ、大阪府や東京都では独自基準を設けた。今週は、WHO西太平洋地域事務局(地域事務局長 葛西 健博士)が作成した最新の資料を中心にアップデートしたい。この文書は、概念を整理するとともに、行動制限の有効性に関するエビデンス集、社会・経済的コストを評価する際のひな形、制限の緩急の意思決定をする際に必要な指標・情報のリスト案など、我が国でも使えるひな形文書を含んでいる。無論、国情に合わせて取捨選択と追加、そして独自情報にもとづく入力が必要である。
このドキュメントでは、まず非薬剤対策(non-pharmaceutical interventions:NPIs)を以下のものを含んだものとする。
NPIsは感染拡大の制御には有効だが、社会経済コストや人々の身体的・精神的健康に悪影響を与えることがあるため、厳しい対策は次第に維持しにくくなる。また、日本、韓国、香港などの事例をみると実効再生産数Rtが1程度で患者の追跡が出来ていれば、厳しい制約をかけなくても感染の爆発を防ぐことができそうである。その為、疫学と社会経済のバランスのとれたNPIsを実施するための5つのステップを提案するものであり、先に本部が公表した、「社会的間隔の保持など社会的対応の調整(緩和)に関するWHO暫定ガイダンス」(第一報で報告済み)などをベースに、より具体的な事項を記載したとしている。
この背景には、西太平洋地域では、感染のピークを越えた国が多く、NPIsの緩和が検討されていることがある。検討に当たっては、①感染状況に対応して対策の緩急を行う心づもり、②潜在的な感染拡大の予測や早期検知能力、③感染者追跡と隔離体制が必用とした上で、次の5原則をあげる。
ついで、推奨される5つのステップが、図表5枚によって提示され、詳細な説明が加えられている。併せて、具体例としてニュージーランドの「警戒4レベル(準備、リスク低減策、NPIsを強力に実施、ロックダウン)」とアメリカの「再開ガイドライン」がボックスの中に示されている。
推奨される5つのステップとは:
表1 |
Tool#3:NPIsの評価と分類 |
なお、このドキュメントでは、最後に、接触者の追跡、デジタルテクノロジーの活用、検査の拡充、医療システムの強化、法的配慮がなされる必要性を指摘している。
上記5つのステップの相互関係は【図1】に示されている。
図1 |
推奨される5つのステップ |
また、全体のコンセプトは【図2】に示されている。
図2 |
推奨されるアプローチの概念図 |
本文は以下からダウンロードできる。
WHO総会は毎年5月に開催され、衛生統計報告書が事前に発表されるのが常である。今年の総会はCOVID-19のパンデミック下で、国際間移動もかなわないことから完全にVirtualに行われるが、報告書は公刊された。いうまでもなく、本報告書はコロナ以前に各国から提供された情報をもとにしたものであるが、COVID-19の最新情報は一部取り込まれている。2016年データーによれば、平均寿命と健康寿命はともに延伸し世界の平均寿命は72歳で、特に途上国の改善が著しい。寿命のうち健康でいられる期間(%)が一番良好なのはシンガポールの91.8%(平均寿命83、健康寿命76)、日本は88.9%(平均寿命84歳、健康寿命75歳)であるが、世界三位の赤道ギニアは平均寿命60歳、健康寿命54歳で90.3%となっているので単純な順位付けは意味が乏しい。なお、世界の主要死因である非感染症の改善スピードは鈍化しており、加えて、医療サービスへのアクセスや基本的な保健データーの整備状況に大きな格差がある。これらがCOVID-19対応でも問題になっていると指摘している。
分かりやすいビジュアル・サマリーは以下で見ることができる。