日本医師会 COVID-19有識者会議
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WHO アップデート 第六報

中谷 比呂樹慶応義塾大学 特任教授WHO執行理事
COI:なし
注:この記事は、有識者個人の意見です。日本医師会または日本医師会COVID-19有識者会議の見解ではないことに留意ください。

(2020年6月1日寄稿)

北米および欧州での感染がピークを越えたと思われることから、グローバルヘルス界の関心は、感染が拡大しつつあるロシアとブラジル、そして次の感染拡大に向けた医薬品の開発・大量生産・配布の仕組み作りに移りつつある。その一方、米国のWHO脱退宣言により、地球規模のCOVID-19対応がどうなるか不透明感が増して、「政治の季節」を迎えている。そのような中でも、技術的な仕事は続けられており、COVID-19 暫定患者管理ガイドライン改訂版が5月27日に公表された。

 暫定 COVID-19臨床管理ガイダンス改訂版

(Clinical Management Guidance)

5月27日

2020年3月13日に公開された「COVID-19が疑われる場合の重症急性呼吸器感染症臨床管理暫定ガイダンス(Clinical management of severe acute respiratory infection (‎‎‎SARI)‎‎‎ when COVID-19 disease is suspected: interim guidance:https://apps.who.int/iris/handle/10665/331446?search-result=true&query=10665%2F331446&scope=&rpp=10&sort_by=score&order=desc)」の改定版である。 

この62ページに渡るガイダンスは、臨床現場で用いられることを念頭に国際的な専門家グループによって作成されたもので、スクリーニング、重症度別の治療から倫理面までをカバーする包括的なものである。作成に当たった専門家は約30名で、日・米・仏・独からの参加はない反面、中国、香港、イタリア、カナダ、パキスタン、ブラジル、南アから複数の参加がある。 

構成は、次の24章(青字は今回新しく付け加えられた章)と3つの資料よりなっている。今回追加された章以外でも大幅な追加修正が行われている。

  1. 背景
  2. COVID-19治療のパスウエー
  3. スクリーニングとトリアージ
  4. 感染拡大予防措置
  5. 診断検査
  6. 軽症例治療
  7. 中等症例治療
  8. 重症例(肺炎)治療
  9. 最重症例(呼吸不全)治療
  10. 最重症例(敗血症)治療
  11. 入院患者と最重症例の合併症予防
  12. 抗ウイルス薬、免疫調節薬、その他による治療
  13. 副腎皮質ステロイド療法
  14. 急性・慢性感染症の治療
  15. 精神・神経学的対応
  16. 非感染症治療
  17. リハビリテーション
  18. 妊娠前後の女性のケア
  19. 乳幼児の栄養とケア
  20. 高齢者ケア
  21. 末期ケア
  22. 倫理的原則
  23. 死亡例の報告
  24. 臨床研究

添付の資料は、

  • 資料1:COVID-19治療パスウエー
  • 資料2:関係のガイドライン等の紹介とリンク集
  • 資料3:末期治療

である。

なお、具体的な提言については、

  • :強く推奨する
  • :行わないことを強く推奨する
  • :症例に応じて適用する

と分かりやすい表記形式をとっている。

また、この暫定ガイダンスの冒頭には、3つの主要変更点と継続して重要な点2つをp5に掲載している。

主要変更点:

  • 隔離を含む伝播抑制措置は、有症状患者については、発症後10日に加え最低3日無症状(発熱・呼吸器症状)であれば解除できること。
  • 疑い例および確定軽症例では、抗生物質治療または予防的使用は推奨できないこと。疑い例または確定中等症例でも、細菌感染症を疑わせる臨床上の疑念が無い限り抗生物質は処方されるべきではないこと。
  • 成人・思春期の入院患者については、禁忌が無い限り、血栓塞栓症予防の為、各般の基準に準じてヘパリンなどが用いられるべきこと。 禁忌がある場合は間歇的な加圧による機械的予防措置をとること。

継続して重要な点:

  • 暫定ガイダンスに掲載された薬剤は、臨床治験の枠組外で、治療・予防目的で投与されてはならないこと。
  • 副腎皮質ステロイドをウイルス性肺炎の治療としてルーチンに使用してはならないこと。

本文は以下からダウンロードできる。