中谷 比呂樹 | 慶応義塾大学 特任教授WHO執行理事 |
COI: | なし |
(2020年8月3日寄稿)
我が国は、感染者数が右肩上がりの趨勢が続く中で、経済の再起動を行うという難しい局面に至っている。この場合、高齢者をどう保護するか、国際交流をどう再開してゆくかが焦眉の課題である。この観点から、WHO本部と同西太平洋地域事務局からタイムリーな公表がなされたので紹介する。今回も、WHO西太平洋地域事務局所属の邦人職員の方々のご尽力を得たので記して感謝したい。
COVID-19対応では、高齢者の感染予防が喫緊の課題である。例えば、オーストラリア、韓国、日本などにおいては、80歳以上のCOVID-19感染者の死亡率は20%を超えて、欧州においては、COVID-19の30~60%の死亡者が高齢者介護施設で発生している。さらに、COVID-19による高齢者への健康の影響はCOVID-19感染リスクそのものにとどまらず、公衆衛生及び社会的措置による、医療や介護サービスへのアクセスの制限、社会的孤立が深刻な健康リスクとなっている。同時に、COVID-19の流行に伴い、個人の健康への関心の高まり、および、個人の健康は地域社会のインフラであるという新しい考え方(新しい常態)が生まれつつある。
これらの流れを踏まえ、このガイダンスは、2020年3月にWHO西太平洋地域事務局から出された同名のガイダンスを大幅に改訂し、高齢者・高齢者介護施設における感染予防、また、新しい常態における高齢者政策について提言をおこなうものである。 なお、作成にあたっては、我が国厚生労働省の「高齢者介護施設における感染対策マニュアル 」(2019年3月)も参考にしたと明記され、概念図も採用されている。
主要項目は3つで、逐次説明する。
高齢者はCOVID-19感染のリスクを考慮し、手洗い、咳エチケット、顔を触らない、感染が起こっている場所において(かつ物理的距離を取るのが難しい場合)、マスクを着用するなどの予防策をとるべきである。また地域における必要なサービス(医療、福祉、訪問介護、生活必需品の配達など)を特定して、ロックダウンなどの社会的措置が取られた場合に、どのように必要なサービスを継続できるか、医療、福祉関係者、家族、友人などとあらかじめ相談しておくべきである。また、高齢者の介護者は、高齢者への感染のリスクを最小限にするために、特に感染予防に気を付けるべきである。また、介護者が病気になった際に、代わりとなる者を予め特定しておく必要がある。
また、外出制限などの社会的措置によって、医療へのアクセスが制限されたり、生活習慣が変化することで高齢者の健康状態が悪化する可能性があり、高齢者自身の健康維持が重要になる。当指針では運動、栄養、視覚、聴覚、精神、口腔の健康維持と、社会的孤立を防ぐためのチェックリスト(Screening tests for physical and mental capacity)と高齢者が自ら出来ることの助言(Suggested messages to older people for self-care)を添付している。
さらに、自宅で療養している高齢者とその介護者についても、感染予防と、感染が発生した際の感染の拡大に努めるべきである。
高齢者介護施設においては、感染予防の原則として、病原体を「持ち込まない」「(施設内で)拡げない」「持ち出さない」の3原則が重要になる。また、必要な準備を行い、COVID-19の流行が見られる際には、早期発見、トリアージ、感染源のコントロール、入居者への感染予防策を取るべきである。また、入居者にCOVID-19の感染が疑われる、または確定した例が発生した場合には、直ちに必要な報告を行い、施設内での衛生管理の強化や入居者の移動を制限するなどの措置を取るとともに、消毒を徹底させるべきとしている。
COVID-19は、高齢者の健康にとって大きな脅威を与えている一方、COVID-19の流行を通じて、個人の健康への関心の高まり、および、個人の健康は地域社会に不可欠なインフラであるという新しい考え方(新しい常態)が生まれつつある。これは、国連のSustainable Development GoalやWHO西太平洋地域のビジョン「未来に向けて」(https://iris.wpro.who.int/bitstream/handle/10665.1/14476/WPR-2020-RDO-001-eng.pdf)で目指している持続可能な社会の実現につながるものである。各国は、今回のCOVID-19の流行を高齢者の健康を守り、増進するための機会とすべきである。具体的には、
などを検討すべきとしている。
各国は懸命にCOVID-19対策を行っているが、加えて定期的な評価(Intra-Action Review:IAR)を行えば、機会を逃すことなく対策の向上に役立つ教訓を得ることができる。特に、感染拡大に至った経緯から学ぶことによって、対策の準備と実行に遺漏がなかったかを探り、対策の向上を図ることができる。このガイダンスには、評価をオンラインで行うための様々なテンプレートが添付されている。それらは:
全文は以下からダウンロードできる。
各国は国境をまたぐ移動制限を緩和する趨勢にあるが、その際に考慮すべき諸点をあげ解説している。各国は独自にリスク・ベネフィットを検討し、優先順位を付けて段階的に緩和措置を講ずるべきであると強調している。考慮すべき諸点として、彼我の疫学的状況、輸入例が生じた場合の保健・関連セクターの対応能力、入国地点における、施設条件、調整能力、サーベイランスと症例管理能力(検査能力、デジタルツールを使った追跡など)をあげている。
全文は以下からダウンロードできる。