日本医師会 COVID-19有識者会議
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WHO アップデート 第15報

中谷 比呂樹慶応義塾大学 特任教授WHO執行理事
COI:なし
注:この記事は、有識者個人の意見です。日本医師会または日本医師会COVID-19有識者会議の見解ではないことに留意ください。

(2020年8月24日寄稿)

今回は、WHO平洋地域事務局(WPRO)本部のもの2件を紹介する。WPRO資料については、在勤の邦人職員のご協力を受けたので記して謝意を表する。

1 WHO西太平洋地域事務局COVID-19バーチャル記者会見

(Virtual press conference on COVID-19 in the Western Pacific)
 2020年8月18日

表記が開催され、冒頭、葛西健地域事務局長が、COVID-19の今までの対応と将来展望について述べられ、プレス・リリースも出ているので、その概略を以下に示す。そのもととなったビデオクリップも視聴できる。

COVID-19のパンデミックから7か月半経過したところである。

この地域は他の地域に比べると感染確認例は少数にとどまっているが、一部の国は新たな感染拡大に直面している。この感染再興は前回の繰り返しではない。各国は以前と異なり感染の再興に対して、早期発見及び即時の対応ができるようになっており、国民はニューノーマルの一環である感染防御策を実践している。これらにより人々の生活や経済に大きな影響を与えることなく対応することが可能となった。この地域における感染の今後の動向は、政府や人々の行動次第である。

過去1か月、地域の専門家を交えてこれまでの対応評価を行ってきた。そこでわかったことは大きく3つである。

第一に、この地域でこれまで数年にわたって投資、準備してきた健康危機対応の枠組みや機能の効果が発揮されたこと。これは、事前の投資が重要であることを示唆している。

第二に、このパンデミックは我々が想定し、準備してきた以上に規模が大きいものであった。そのため、危機対応能力は、臨機応変に拡大・縮小しかつ焦点を絞った対応ができる体制が必要であることがわかった。

第三に、ニューノーマルを希求しつつ、同時に継続してCOVID-19対応策を洗練させ、それを適用させることが重要である。洗練された対応の一例としては、より早期の地域を限定した移動制限や公衆衛生措置の導入であり、これはより効果的で社会や経済への影響を限定的にすることが可能であることがわかった。

もちろん、感染者の特定、隔離、治療そして接触者の追跡・隔離のための医療提供体制や公衆衛生の強化は前提である。最も重要なことは、一人ひとりの行動である。20代から40代の感染者は無症状あるいは軽症であり、感染拡大の要因となっていることが分かってきている。脆弱な社会や人々への感染伝播を防ぐことが重要である。

多くの国で人々の行動変容が見られている。マスクの着用、物理的距離、手指衛生が日常の一部となっている。ただ、これを継続することは簡単ではなく、人々は疲弊している。行動変容の継続は大変難しいが、これを継続し、コミュニティを守ることが必要である。

一人一人が賢い選択をすることで、全国的なロックダウンや経済を止めるような強力な公衆衛生措置は回避できる。この状況を、みんなが協力して、可能な限り安全に、強力な形で突破していきたい。

プレス・リリース全文と録画は、以下から見ることができる。

2 WHO西太平洋地域事務局 医療従事者のCOVID-19症例の検討 対応への示唆

(Exploration of COVID-19 health-care worker cases : implications for action)
 2020年8月21日

医療従事者(当該指針では医療・看護スタッフ、病院の管理および事務スタッフ、地域医療従事者などの医療提供に関わるすべての人々を含む)はSARS-CoV-2への暴露リスクが高く、かつウィルスの媒介者になる可能性がある。また、感染したり隔離対象となってしまうと、医療サービスの提供に影響を及ぼす。そのため、医療従事者の感染経路を把握し、経路に応じた対策が必要となる。

当該ガイドラインでは、医療従事者が感染した場合の経路調査のプロセスを示すとともに、考えられ得る5つの感染経路ごとに、示唆される要因及び予防例について提示している。

また、医療従事者の感染状況はサーベイランスやCOVID-19対応において基本となる重要なデータであり、施設等と公衆衛生当局との間で体系的にかつ適時に管理されるべきであるとしている。

当該ガイドラインで示された考えられ得る5つの感染経路と要因、予防例については以下の通りである。

感染経路要因医療従事者の感染予防対策
COVID-19患者の治療にあたった後に医療従事者が感染防護具の不適切な使用や不足により、IPC プロトコールが順守されていない1.IPC対策の強化と、ガイドラインに沿ってCOVID-19患者に接触する医療従事者への(防護具の)供給
2.COVID-19患者に接触するすべての医療従事者に再トレーニングを行う
3.同じエリアに従事するすべての医療従事者を対象にリスクアセスメントと管理指針に従って(スクリーニングを)実施する
  COVID-19ではない患者の治療にあたった後の感染、同じエリアで従事する医療従事者  COVID-19患者のスクリーニングが不十分あるいは、非COVID-19患者へのIPC対策が順守されていない1.非COVID-19 患者ケアの一般的なIPC対策を強化する、あるいは、個人用防護具の合理的活用を考慮し、すべての患者を疑い例として扱う
2.施設を来訪する患者のスクリーニングとトリアージ戦略を見直す
3.同じエリアで従事するあるいは同じ患者に暴露したと考えられるすべての医療従事者にリスクアセスメントと管理指針に従って(スクリーニングを)実施する
医療従事者が施設内の共有施設での感染  カフェテリア、移動シャトルといった院内の共有スペースでの感染1.感染したと考えられる施設内特定エリアの消毒。必要に応じて施設あるいはエリアの閉鎖。
2.指針に従って症状のある医療従事者の体系的スクリーニングを実施する。医療従事者に症状があったり隔離される必要がある場合は、有給での病欠や補充の仕組みを構築する。
3.施設内の共有施設において一般的な物理的距離を保つ対策を改善させる。
異なる施設の医療従事者で共同居住施設での感染市中感染1.常時物理的距離を保ち、咳エチケットや手指消毒を実践するよう医療従事者に助言する。
2.物理的距離を有効に保てない場合は、 医療従事者の個々の状況に応じて代替の居住施設や交通手段を提供する。
異なる施設の医療従事者でかつ異なる居住施設  大規模市中感染1.医療従事者の状況に応じて週ごとの居住施設付きのシフトを検討する。
2.可能であれば医療従事者の定期的な検査を実施する。

全文は以下からダウンロードできる。

3 WHO本部技術ガイダンス COVID-19緊急世界物資調達システム品目リスト

(Emergency Global Supply Chain System (COVID-19) catalogue)
 14 August 2020

低・中所得国にとっては、大規模感染症対策に必要な物資を適性価格で、かつ、必要性に応じてタイムリーに確保することは至難の業である。まして、COVID-19はパンデミックとなったため、多くの物資が不足するに至った。そこでWHOを始めとする国連機関やグローバルファンドなどの国際機関は共同調達のメカニズムを作成し、今般その品目と価格が公開された。品目には、感染予防ギア、医療器具、医療関係消耗品、デスポーザブル器具、検査機器などが含まれ、いずれもネット上での調達が可能となっている。因みに、人工呼吸器は2種、28,384ドルのものと7,250ドル。手動式RT-PCR検査機は25,000ドル、試薬は12.7ドル、予防ガウンは2.723ドル、サージカル・マスクは0.323ドルとなっている。

全文は以下からダウンロードできる。

4 WHO本部暫定ガイダンス COVID-19症例接触者の隔離の際に考慮すべき諸点

(Considerations for quarantine of contacts of COVID-19 cases:Interim guidance)
 2020年8月19日

隔離に関する暫定ガイダンスは2020年3月19日に公表されているが、このガイダンスは、COVID-19確定例と疑い例に接触した人の隔離に焦点をあてたものである。当然ながら感染の拡大とともに急速に蓄積された知見を反映したものとなっている。なお、隔離(Quarantine)を「感染の拡大を防ぐため行動制限をかけたり他の人との接触を物理的に遮断すること」ととしている。記載されている項目は

  • 政策的配慮 (政府の方針の公表、地域社会の参加、隔離される個人への各種サポート、社会的環境要因への理解)
  • 対象者 (発症前2日、発症後14日間の症例に15分以上1メートルで対面したもの、物理的に接触したもの、予防ギアなしに症例の看護をしたもの)
  • 隔離を実施する際の勧告事項 (必須物品の提供、感染予防措置の実施、健康管理)
  • 環境整備と適切な措置(換気の基準などを詳細に記載)
  • 感染予防対策(早期発見と対応、教育を含む管理、環境衛生)
  • 隔離された人々の健康モニタリング

である。

全文は以下からダウンロードできる。