中谷 比呂樹 | 慶応義塾大学 特任教授WHO執行理事 |
COI: | なし |
(2020年5月11日寄稿)
ワクチンと治療薬の開発が待たれ、それまでの間、日本では「新しい生活様式」、海外では「new Normal」と称される、健康と社会経済のバランスをとった社会への移行が余儀なくされるという認識が広がっている。これに関連して、「社会的間隔の保持」など社会的対応の調整(緩和)に関するWHO暫定ガイダンスは第一報で、都市・市街地対策に関するWHO暫定ガイダンスは第二報で紹介した。
世界では、このような状況からいち早く脱するためのワクチンと治療薬の開発への取り組みが加速している。また、WHO西太平洋地域事務局では、外出規制などの措置を強化・緩和する場合の具体的指針を検討中であり、公表され次第、このHPでお知らせすることとしたい。
COVID-19のワクチン、治療薬、診断薬の開発と、それらへのアクセスを確保することは最優先の課題である。EU大統領、フランス大統領、WHO事務局長、ゲーツ財団は、4月24日に呼びかけを行い、BMGF、 CEPI、Gavi、Global Fund、UNITAID、Wellcome Trust、WHOの6機関が創設メンバーとなり、IFPMAを始めとする多くの団体が協力を次々と表明した。この目的は、COVID-19の安全・高品質・有効・廉価な診断薬、治療薬、ワクチン開発を促進するのみならず、誰一人として取り残さないことを目指して供給を確保することとしている。5月4日は、Virtualな拠出者会議が開かれ、NHKによれば、日本を含む30以上の国と地域から合わせておよそ8600億円が集まる見通しとなった。
(注:BMGF:ビル&メリンダ・ゲイツ財団、CEPI:感染症流行対策イノベーション連合、GAVi:ワクチンと予防接種のための世界同盟、Global Fund:世界エイズ・結核・マラリア対策基金、UNITAID:国際機関ユニットエイド、Wellcome Trust:英国ウェルカム公益信託)
4月24日のWHOプレスリリース及び同日付けのフライヤーは以下からダウンロードできる。
プレスリリース
フライヤー
世界レベルの研究ムーブメントに少なからぬ影響を与えているのがこの文書である。WHOの緊急要請に基づき2月11日~12日専門家会合がジュネーブで開催され、COVID-19の現在までの知見、優先研究課題、効率よく研究を進める方策、研究費の確保などが論じられ、現下の流行を制圧する緊急の研究のみならず、将来来りうる新たな感染症対策の基盤となる研究プラットフォームの両者が必要であるとの意見に達した。これらを踏まえて、本文66ページに及ぶロードマップが作成され公開された。大別して、総論部分と各論部分に分かれる。総論部門は、目的、戦略的アプローチと要点、感染拡大防止緊急対策、優先的に解明すべき未知の領域、優先横断的研究課題、研究と革新の拡大、重点研究のタイムライン、中長期的優先課題、財源の有効活用、管理体制よりなり、全体の1/3のページ数が割かれている。各論部分では、ウイルスの特性・伝播・診断、獣医学・環境的研究・人畜感染、疫学、臨床像と患者管理、医療者の保護を含む予防と対策、治療薬候補の研究開発、ワクチン候補の開発、研究の倫理面への配慮、アウトブレーク時の社会科学の項目毎に最新の状況、知識ギャップ、研究の優先順(緊急対応用課題、中長期的課題)が述べられている。
次に総論部分では図表を用いて説明しているので、その主要ポイントを以下に述べる。
ロードマップの全文は以下からアクセスできる。
アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)やアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)の服用によりCOVID-19に罹りやすくなるばかりではなく重症化するのではないかとの懸念がある。また、両薬剤がCOVID-19に役立つのではないかとの期待もあるため、4月17日までに各種文献データーベースに登録された文献調査を行った。その結果11の観察研究(8件が中国、米・英・伊より各1件)を検討した結果、研究デザイン上、両薬剤が感染率を高めるかどうかを検証した論文はなく、服薬状況が重症度に直接関わっているとの論文も、COVID-19の治療薬としての功罪を論じた論文もなかった。結論として、「ACE阻害薬やARBの長期服用者のCOVID19重症化リスクは、非服用者より高いわけでは無いという低い確度のエビデンスがある」としている。
全文は以下で閲覧できる。
COVID-19のワクチンと治療薬が無い状況下において、多くの国で外出禁止、学校閉鎖、国境閉鎖などの強力な公衆衛生措置と行動制限がとられている。これらは、医薬品を使わない対策(Non Pharmaceutical Intervention)と呼ばれる。しかしながら、これらの措置は新型コロナウイルスへの健康面での対策としては有効であるものの、同時に深刻な社会的・経済的な影響をもたらすため、流行のピークを越えた多くの国において、措置の緩和が模索されている。しかし、その場合の考え方については必ずしも整理されていない。そこで、WHOの西太平洋事務局では、葛西健地域事務局長の陣頭指揮のもと、各国が公衆衛生的措置の政策立案を行う際の指針を作成中で、間もなく公表される見込みである。その中で、考量すべき点は、医療システムの能力、公衆衛生措置と行動制限のステージ、流行状況、公衆衛生措置の効果の継続的なモニタリングなどとしている。公表され次第、概要をお伝えする。