中谷 比呂樹 | 慶応義塾大学 特任教授WHO執行理事 |
COI: | なし |
(2020年6月9日寄稿)
北米および欧州での感染がピークを越えたことから、グローバルヘルス界の関心は、次の感染拡大に向けた体制作りに移りつつある。 その中には、来るべき第二波、あるいは次期インフルエンザシーズンでのCOVID-19との混合感染に備えた医療体制作りが急がれる。
今回は、前回紹介したWHO本部発の「暫定 COVID-19臨床管理ガイダンス改訂版(Clinical Management Guidance)」を踏まえて、WHO西太平洋地域事務局が作成した「病院向け暫定ガイダンス:医療サービスの管理、平時行われている必須の医療ケアの継続及び患者急増時の対応能力構築」が出されたので紹介する。このようにWHO地域事務局は、本部が定めた世界指針を地域の実情に応じて補填・拡充する重要な技術的役割を果たしている。葛西健WHO西太平洋地域事務局長は、地域の実情等を国内外のメディアに発信されており、来週6月17日(水)には慶應義塾グローバルリサーチインスティテュートのセミナー「コロナ時代の日本と世界: 新たなパラダイムを危機とするか機会とするかを考える」で講演されることとなっている。事前登録は以下から出来る。
また、一般人のマスク着用について、WHOは従来の消極的なポジションを変えているので、マスク着用の啓発ビデオを紹介する。
最後に、世界の健康危機管理への挑戦はCOVID-19ばかりではない。アフリカのコンゴ民主共和国で、4例の新規エボラ出血熱が報告されている。
このガイダンスは、冒頭、COVID-19対応で病院は中心的役割を果たすとした上で、アウトブレイクで急増する医療機関への需要に対応しながら、病院が質を担保しつつ、必須医療サービス提供をし続けられるようにするための、暫定的な行動指針を示すことを目的として作成されたとしている。また、内容的には、先にWHO本部が示したClinical management of severe acute respiratory infection(SARI) when COVID-19 disease is suspectedを踏まえて作成されたものとされている。
COVID-19の患者のほとんどは軽症や合併症を伴わない。約14%は入院及び酸素投与が必要な重症例、5%はICUでの治療が必要となる症例である。その為、アウトブレイクの初期段階では、病院はCOVID-19の症例対応に加えて、必須の医療サービスを継続させることができる。ところが、COVID-19の取り扱い症例が増加するにつれて、病院は、コミュニティに最大限の利益をもたらすことができるよう、限られた資源を最大化するための戦略変更が求められる。この場合、保健大臣や病院管理者は、COVID-19に対応すると同時に病院の基本的な機能の調整や維持が求められることになり、往々にして難しい判断を迫られることになる。
本暫定ガイダンスは「病院で実施すること」と、「その他考慮すべきこと」の2つの大きな柱で構成されており、病院で実施することの基本原則として次の6点を指摘している。
次いで、相互に関連する4つの側面が考慮される必要があるとして、1. COVID-19の症例を受け入れる前に実施すること、2. 初期のCOVID-19症例を管理するために実施すること、3. 行われている必須の医療ケアを維持するために実施すること、4. 需要急増への対応能力を構築するために実施することを挙げ、それぞれに関して具体的な指摘をしており参考になろう。以下その項目を紹介する。
最後に、この暫定ガイダンスは、その他考慮事項として、代替のケアモデルを特定する、初診(first-contact)戦略の構築、eHealthの活用の3点を挙げている。
外来の代替戦略を検討する際の選択肢としては、集約的なホットライン、オンラインプラットホーム、チャットボット、臨時の発熱外来などである。各窓口は、相談のトリアージや医療につなげるため、明確なアルゴリズム及び視覚的な補助が必要である。これらはCOVID-19対応における全国的に統一のトリアージプロトコールに基づくもので、これらの窓口担当者は訓練を受けるべき。また、採用された方法は一般に明確に周知されなければならないとしている。
eHealthについては、実用可能であれば、患者紹介やフィードバック、病院負担を軽減する為に、コミュニティやプライマリーケアレベルで、症例のモニタリングや効率的な管理を支援するような活用を検討するよう促している。
WHOは、一般人のマスクの着用は感染予防効果に乏しいとして推奨していなかったが、6月5日の啓発ビデオでは、1メートル以上の間隔がとれないような密集環境では予防に有効だとする見解をビデオメッセージで公開している。また、正しいマスクの着脱についても以下のホームページ上にポスター形式で説明している。
ビデオは以下から視聴できる。